公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

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全国のオアズパーソンへの手紙(第101信)

2020年12月25日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

この12月末をもって、日本ボート協会の会長を退任することといたしました。全国のオアズパーソンの皆さんには、長年に亘りご支援・ご協力いただいたことに、心からの感謝とお礼を申し上げます。ほんとうにありがとうございました。

「なぜコロナ禍でオリンピック・パラリンピックを開催しなければならない、この難しい時期に会長を退くのですか?」と多くの方に尋ねられました。簡単に決断にいたった経緯と考え方をお話ししておきます。

実は在任期間が10年を超えた5~6年前から「そろそろ後任にバトンタッチしなくては……」と考え始めました。わたし自身の経験から、組織のトップの在任が長期化すると知らず知らずのうちに考え方の幅が狭くなり、改革への意欲・勢いが弱まります(もちろん一方で経験を積むことでプラス面もありますが……)。今、日本のボート界は数多くの課題をかかえておりますが、「これらの改革をぜひ新しいトップの下で」と強く考えたわけです。そこで周囲の幹部の方々とも相談して、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終了した時点でトップ交代をしようと決断し、その方向で種々の準備(特に後任人事)を1年以上前から進めてきました。そこに今回のコロナ禍とオリ・パラの一年延期です。これには参りました。「どうしよう?」と考えに考えた末、結論として予定通りのタイミングで会長交代をする決断をしたのです。理由は

  1. 人事刷新はこれ以上遅らすべきでない。新体制として多くの課題に本腰を入れて取り組むことが急がれる。
  2. 目の前のオリ・パラ(そして5月のアジア大陸予選)を成功させる力は現在の執行体制が十分に持っており、何の不安もない。そして新会長がオリ・パラを経験することは国際ボート連盟(World Roing)幹部との人間関係を築く絶好のチャンスである。

この2点です。ぜひご理解いただきたいとおもいます。

新会長の坂田東一さんは、わたしが厚い信頼と期待を寄せるオアズパーソンの一人です。大学卒業後すぐに国際審判員資格を取るなど、ボート界に貢献する意欲は十分でしたが、仕事の関係で直接ボート協会に関わることはほとんどありませんでした。社会的なキャリアはスポーツ庁を管轄する文部科学省の事務次官、ウクライナ駐在大使、そして現職の(財)日本宇宙フォーラムの理事長と要職を歴任しています。そしてわたしの知る限り、お人柄はたいへんおだやかで、皆の意見をよく聞いてまとめ上げていくタイプとお見受けします。さらに、ボートを深く愛していること、これはわたしが全面的に保証します。

ぜひ日本ボート協会はもちろん、全国のオアズパーソンと心をひとつにして、すばらしいボート界をつくっていただきたいと思います。

今度、会長を退くにあたって、62年に亘るわがボート人生を振り返ることが何度となくありました。思い出といったら数限りなくありますが、結局は「ボートをやってほんとうによかったなァ」という平凡な結論に落ち着きます。「一艇あって一人なし」このボートの理想境、9人の心と身体がひとつになって艇の下を水がシュルシュルと滑っていく感じ、このほんの数度しか経験したことのない状況を、いま頭の中で思い返してみると、まるで夢のようです。そして多くの友を得ました。オアズパーソンには勝つことだけを考えたり、目立つことを求めたりする人物はごく稀で(我欲が少ないのです)、清清しい感じの人がほとんどです。そして17年間会長を務め全国のレガッタに顔を出して感じたことは、ボート好きのボランティアの人達が何と沢山いることか、彼らの表立たない努力のお蔭で各レガッタがしっかり運営されていること、これは決して忘れてはいけない、そう強く感じました。正直、日本ボート協会会長として、こうした人材が数多くいることを誇らしく思います。

以上、ボートについて話し出すとキリがないので、この辺で終りにします。

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最後に、12月17日(木)、長崎県諫早市本明川で合宿中の日本代表候補選手たちを激励に行ってきたことをご報告します。本明川は直線で7km近くとれる理想的なボート環境で、全日本チームも今回で3回目の合宿となり、わたしも視察は2回目です。寒い中、精一杯の厚着をしてモーターボートで約1時間30分ほど、三好悟強化委員長も同乗して、久し振りに一人ひとりの漕ぎをじっくり観させてもらいました。男女各5人、(軽量級4人、オープン1人)が全員シングルスカルで、この日のメニューはレート17で20㎞を休みなしで漕ぐというものです。

ギザビエNSDの指導体制も5年目に入り、水上練習メニューも陸上トレーニングについても、少なくとも日本代表選手レベルでは100%理解され、実行されていると三好委員長は確信しています。わたし自身、最初は新しいギザビエ方式にとまどいを感じましたが、これだけの練習方式の革新ですから、定着し効果を現すのに時間がかかるのは当たり前だと、今にして納得します。特に今年に入ってからは多くの選手が自己ベストを更新し、ようやく効果が目に見えてきたようです。

それにしても「レート17で20km、約90分近く漕ぎ続ける」という練習は、見ていて息がつまるような緊迫した物凄い練習です。ほとんどの時間、誰一人見る人もいない中で、強い、正しいオールを1千5百本近く引き続ける。これは①正しいブレードワークを身体にしみ込ませるという練習であると同時に、②1千5百本、1本もゆるがせにしない己れ自身との戦い、精神を鍛える戦いだと見ていて思いました。

今回も(株)チョープロの北野雄一監督、小谷太志さんにモーター運転などお世話になりました。また長崎県副知事の平田研さん(東大ボートOB)はコースに5㎞に亘ってセンターブイを設置してくださり、当日も激励に来てくれました。

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以上で、今回で101回になる「全国のオアズパーソンへの手紙」は終ることにします。長年のご愛読ありがとうございました。

もちろん会長こそ退きますが、ボートを愛するオアズパーソンであることは変わりません。またどこかの川でお会いしましょう。

(完)