公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA OFFICE

全国のオアズパーソンへの手紙(第87信)

2019年12月5日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

パラローイングの練習を一度も見たことがなかったので、11月8日(金)合宿中の相模湖に行ってきました。

日本のパラローイングの歴史は、2008年の北京パラリンピックへの参加がスタートです。まだ10年ちょっとの歴史なので、体制も選手の漕力も欧米に比べると遅れてはいますが、「まだまだいける」との意気込みで昨年協会組織も統合し、岡本悟さんがパラローイング本部長に就き、普及と強化に本格的に力を入れだしたところです。現状の課題は、なんといっても選手数を増やすことです。都道府県ボート協会の協力も得、各市町村の障がい者担当部署からの情報を得ながら選手発掘につとめています。他競技からの転換選手も、パラアイスホッケー、パラサッカーなどから来てくれて頑張っています。

パラローイングは障がいの種類を程度によって3つのクラス(障がいの重い順に、PR1、PR2、PR3)があり、クラスごとに種目も決まっています。パラリンピックでの種目は下記4種目です。

クラス 種 目 略 称
PR1 男子シングルスカル
女子シングルスカル
PR1 M1×
PR1 W1×
PR2 混合ダブルスカル(男女各1) PR2 Mix2×
PR3 混合舵手つきフォア(男女各2) PR3 Mix4+

日本はまだ出場権を取れていませんが、4種目全部の出場を目指して来年4月末のアジア大陸予選(韓国忠州)、ついで5月8-11日の世界最終予選(イタリア)に向け、選手、スタッフの皆さん気合い十分です。

相模湖では10人の選手が合宿中でした。わたしもモーターに乗り、初めて間近で漕ぎっぷりを見せてもらいました。全体にまだ漕歴が短いなか、コーチ陣(大戸淳之介ヘッドコーチ他2名)のていねいな指導が印象的です。PR1のシングルスカルでは脚と上体が使えないなかで、どう有効なストロークレンジを伸ばすかがポイント。またPR3の混合舵手つきフォアでは4人の障がいの内容がそれぞれ違い、眼の不自由な選手が2人いるクルーなので、どうタイミングを合わせユニフォミティをつくり上げていくかがポイントだろうとわたしなりに見ました。ただこのクルーは今年4月に組んだクルーなのにいいリズムで漕いでいて、今後に期待が持てそうです。

とにかく陸に上がってからの選手達のめっぽう明るいことが、いちばん嬉しいことでした。どうぞ皆さん、チャンスを見つけて練習を見に行ってください。そして応援よろしくお願いします。

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来年4月27-30日の韓国忠州での「アジア大陸予選」まで残り5ヵ月を切りました。その大事な予選に向けた強化選手たちの動きが活発になってきています。

まず今年の世界選手権の日本代表だった選手たち12名(男女各6名)が11月5日(火)から3週間の合宿に入りました。2019年度の最大目標だったオリンピック参加権を取りそこなった選手たちは、さすがに目の色が変わって今年のスタートの合宿は「例年とはちょっと違う雰囲気だ」そうです。個々人の練習ぶりも、クルーとしての練習でも、気合いの入ったいい練習ができているようです。

そして11月23日(土)の「Headofthe ARA」(HOA)が今年の日本代表候補選考の第一弾です。これには全部で男子77名、女子43名が参加してくれました。詳細は表1のとおりです。

「HOA」の参加者

(表1)

  男 子 女 子
  シニア U23 U19 シニア U23 U19
オープン 16 4 2 5 8 4
軽量級 38 17 0 14 11 1
54人 21人 2人 19人 19人 5人

当日の天候はあいにくの雨で、しかもかわいそうなぐらい冷たい雨でしたが、選手たちは皆元気に漕ぎ切ってくれました(運営委員の皆さんも本当にご苦労さまでした)。

レース結果は、さすがに前日本代表選手たちが上位を占めましたが、嬉しいことに何人かの有望選手たちがトップ10に割り込んでくれて、彼ら新しい血が今後の練習に大いなる刺激を与えてくれることを期待します。この結果と12月1日に行われるエルゴ記録会の結果を勘案して12月5日には今年の冬季合宿に参加する日本代表候補選手が選ばれるわけです。そして12月9日(月)から3週間新しいメンバーによる合宿に入る、そういうスケジュールです。来年4月の「アジア大陸予選」で東京オリンピックへの参加権が決まるのは、「男女の軽量級ダブルスカル」と「男女のオープンクラスシングルスカル」の4種目だけです。日本はもちろん全4種目にチャレンジしますが、ただ知っておいてもらいたいのは、たとえうまく4種目とも勝てたとしても全部の出場権はもらえません。この予選では1ヵ国最大2種目しか参加権を取れないというルールになっているのです(できるだけ多くの国に参加してもらおうという趣旨です)。その時はどの2種目にするか決めなければならず頭の痛いことですが、とはいえ是非とも全クルー勝ってください。

上記の表1「HOAの参加者」を見て、「へぇ~」と思ったのは、U19で参加してくれたのが「男子2人、女子5人もいたのか」ということと、若いU23、U19ではオープンクラスの選手が多くなってきていることです。オリンピック種目としては残念ながら次のパリ大会からは軽量級種目がなくなることが有力な情勢です(世界選手権などには残ります)。そうした将来の方向性に若い選手たちが敏感に反応してくれているのかな、と思いました。

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11月18日(月)新年度スタートにあたっていろいろ話し合っておこうということで、コーチングスタッフのギザビエNSD(兼)ヘッドコーチ、大林邦彦コーチ、吉田理子コーチ、長畑芳仁強化委員長の4人と木村新理事長も一緒に食事をしながら3時間近く懇談しました。

その3日前の15日(金)に強化委員会として「2019年度シーズン強化活動総括」がホームページに公表されたばかりなので、もちろん基本的な考え方はわかっていました。ここでは生の率直な、そして具体的な対話をお互い心懸けました。

この1年、身体のケガ、故障が何人かにあったことは全員の大きな反省点でした。トレーナーや医科学委員ともよく相談しようということです。またメンタルヘルスにももっと注力すべきだという意見もありました。C2トレーニングによるフィジカル面の強化にも良くなった面、伸び悩んだ面、バラつきがあったようです。フィジカル強化は漕力アップの基礎で、「今年のインカレでの仙台大学の躍進は長年に亘るキチッと続けたフィジカルトレーニングの成果だ」などという意見も出ていました。12月23、24日に国立スポーツ科学センター(JISS)で体力測定を行うことになっているので、日本代表の現状は明確になると思います。また近年は「血中乳酸値」測定が重視されるようになってきているそうで、その辺の研究も必要です。

クルー編成について、ギザビエ方式の肝は「まず個々人の力を世界水準まで上げる、その中から最強の2人を選んでクルーを組み、磨き上げて最速の艇を作り上げる」というものです。この考え方はまさににそのとおりなので、ただ1点、日本人特有のメンタル面に十分配慮して「来年こそ最強のクルーを作ってください」ということで、なごやかに会をおえました。

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その他、今月のトピックスをいくつか。

  1. 11月14日(木) 組織委員会から観客の暑さ対策の件で「海の森水上競技場のメインスタンドの残り半分に、ぜひ屋根を作ってほしい」というわれわれ(並びにFISA)の要請に「NO」の返答がありました。他競技への波及などを勘案した結論のようですが…。
  2. 11月26日(火) 「JOC加盟団体会長会議」が開かれ木村新理事長と一緒に出席してきました。JOCとNFとのコミュニケーションを良くしようという趣旨で、今春に竹田恆和前会長が第1回を開き、山下泰裕会長になって初、第2回ということになります。JOC選手強化本部の「人間力なくして競技力向上なし」という基本テーマについて説明があった後、「オリンピックガバナンスコード」についてなどが主議案でした。特にガバナンスコードについては、NF側からいろいろ懸念する意見が出ていました。
  3. 11月28日(木) 毎年開かれている「ボートマンクラブ会員懇親会」に出席しました。この会も少しずつ若い層にも裾野が広がってきて、今年は108名の出席です。わたしの知らない顔もだいぶ増えてきたように思います。福田紘司会長の「日本ボートの底辺をしっかり支え、ボート発展に貢献できる活動を目指そう」という方針どおり、今年は小学生対象のボート大会を主催したり、特に戸田コースの水草対策特別チームを作ってこの大問題に大きな貢献をしてくれたことが特記されるべきでしょう。
    わたしは挨拶で「ボート経験豊かで、しかもボート大好き人間であるこれだけ多数のベテランが集まるボートマンクラブの存在は、日本ボート界にとってまことに貴重な組織であり、活動だ。深く感謝する」と話しました。また今年も例年どおりオリンピック強化寄付をいただきました。ありがとうございます。

  4. 11月30日(土) 中部電力ボート部70周年記念式典に出席してきました。日本のボートを支えているのは、結局こうした熱心な個々の会社・大学だと考えているので、招かれたらできるだけ出席することにしています。彼らと親しく話をし、感謝の気持ちを伝えたいからです。中部電力ボート部は創部以来ずっと日本ボート界のトップクラスを維持してきました。1980年頃には女子ボート部が5冠達成を5回も記録し、オリンピック代表を4人も出しています。この日は長谷等君、山崎大也君(現中電コーチ)の2人のオリンピアンも出席しており、久しぶりで話をしました。
    当部のモットーは「ローアウト精神」だといいます。中部電力にボート部をつくられた田中精一さん(慶応大OB、元同社社長、元日本ボート協会会長)が大事にしていた言葉だそうですが、すばらしいモットーだと思います。
    会は120人以上が出席し、実に楽しいものでした。記録映像も充実していましたし、合宿の飯炊きマネージャー(現社員)を表彰したり、大石綾美選手(リオ五輪出場当時は中電所属)からのビデオメッセージを流したり、ボート関係者全員による手作りの内容の濃い祝賀会でした。良い会社、良いボート部という印象でした。

  5. 以前日本ボート協会の理事長を務め、長年JOCの専務理事を務められた平岡英介さんが、このたび旭日小綬章を授与されました。ボート界にとってもまことに名誉な嬉しいことで、心よりお祝い申し上げます。長年のボートに対する献身的なご尽力に感謝申し上げるとともに、今後とも何卒よろしくご指導願います。

(以上)