公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

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全国のオアズパーソンへの手紙(第74信)

2018年10月5日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

9月6日(木)~9日(日)、第45回全日本大学選手権大会が戸田コースで開催されました。今やこの大会は、参加選手数が1000名を超え、オックスフォード盾レガッタも入れると1520名にもなり、観客数でも国内大会で最も盛況な大会といっていいと思います。特に最終日は天候にも恵まれ、各校の応援団、OB・OG、そして父兄会の皆さんで、観客席はもちろん、土手も人・人・人で埋まりました(あとで述べるブルガリアでの世界選手権より観客数は圧倒的にこちらの方が多いと見ました)。

今年は例の水草の繁茂の問題で万一の場合が危惧されました。事前に各地の代表校に集まってもらい、どうするか検討しましたが、全大学一致して「たとえレーン数を減らしてでも戸田コースで開催したい」という意見でした。その後、各校の現役部員諸君をはじめ、OB・OGの皆さん、埼玉県ボート協会や公園管理事務所の懸命の努力により、無事戸田コースでの開催にこぎつけました。皆さんのご尽力には心より感謝申し上げます。

今年も男子8種目、女子5種目で熱戦がくりひろげられました。

Final A(決勝戦)は女子舵手なしペアから始まり、まず中央大が優勝しましたが、なんと中央大としては女子の優勝は初めてだそうです。

続けて、レース順に優勝校をあげていきます。

① 男子舵手なしペア 一橋大、②女子シングルスカル 早稲田大③男子シングルスカル 中央大④男子舵手つきペア 日本大⑤女子ダブルスカル 明治大⑥男子ダブルスカル 日本体育大⑦男子舵手なしフォア 明治大⑧男子クォドルプル 仙台大⑨女子舵手つきフォア 立命館大

この女子舵手付つきフォアも立命館大として女子の優勝は初めてとのことです。

ここまできて、わたしは「アレッ」と思いました。男子、女子、それぞれ優勝校が全部違うのです。「実力が接近してきて、勝つ学校がバラけてきたな」と思ったのです。

ここで水草の除去のために30分ほど中断しました。その後は男子舵手つきフォアが日本大、女子舵手つきクォドルプルが早稲田大、男子エイトが日本大と強豪校が勝ち、結局総合優勝は男子が日本大、女子が早稲田大となりました。

なお、この大学選手権については日本ボート協会のホームページにたくさんの写真と選手・コーチ陣へのインタビュー記事が詳しく載っています。すごく面白いのでぜひ観てください。

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9月13日(木)~18日(水)まで、ブルガリアのプロブディフ(首都ソフィアに次ぐ第2の都市)で開催された世界選手権に行ってきました。オリンピック・パラリンピックも迫ってきたので日本選手の応援、世界情勢の視察、そしてFISA総会への出席が目的です。

世界選手権には全日本選手権と大きく違う点が2つあります。

ひとつは3つのカテゴリー、すなわちオープン(12種目)軽量級(8種目)パラローイング(9種目)が一緒に行われる点です。パラの「PR1 1x」(これについては後で説明します)が来て、次にオープンの「W4-」が来る。続いて軽量級の「LM2x」が来るといった具合でレースが続くのです(今回わかったのですが、2017年のFISA総会でパラローイングの距離を他の競技と同じ2,000mに伸ばしたのはこのせいもあるようです)。

もうひとつは、出漕クルー全部に順位をつけることです。例えばM1xには34クルーが出漕しましたが、FA(ファイナルA、A決勝と呼びます)からFF(F決勝)まで行って、1位から34位まで全ての順位を決めます。必然的に大会日数も8日間と長丁場になり、大会役員は大変だろうなと思いました。

ただ参加クルー数はそれほど多くはありません。一番多いのがM1x(34クルー)で、2番目はなんとLM2xの26クルーです。LW2xの19クルーも多い方で、各国とも男女軽量級は、オリンピック種目のダブルスカルに狙いを定めていることがはっきりわかります。一方で少ないのはLW2-でなんと2クルー、LM2-も3クルーと現金なものです。

日本からは軽量級4種目(男女の1xと2x)、パラローイング4種目(PR1の男女1x、PR2の男子1x、PR3の男子2-)の8種目を派遣し、オープンは出していません。

レース結果をわたしの印象を含めてお伝えします。

まず軽量級についてです。1xは男女ともにC決勝でした。LM1xが16位(19クルー中)、LW1xが17位(19クルー中)で、残念ながら世界との差はまだ相当あります。最後の300mでは、とにかく馬力の差を感じました。
軽量級の2xには明確な目標があります。来年の世界選手権でオリンピック出場権を獲得できるのは、7位(つまりB決勝のトップ)までなのです。なにがなんでも7位が目標です。幸い、男女共B決勝に進めたので期待しましたが、結果はあと一歩でした。女子が10位(19クルー中)、男子は12位(26クルー中)でした。B決勝でトップになるためには、女子であと3秒05、まさにあと一漕ぎでした。一方男子の方は、10秒84も差をつけられました。総じて今回の男子クルーは、レースごとの好・不調の差が目立ち、「激戦続きに耐える、フィジカル面の強化が必要かな」という印象を持ちました。いずれにしろ、男女ともここがスタート。これからの1年の覚悟と信念を持った精進を祈ります。

パラローイングについては、まずクラス分けについて説明しておきます。障害度の重い順にPR1(腕だけで漕ぐ)PR2(腕と上体で漕ぐ)PR3(腕も上体も脚も使って漕ぐ)の3段階に分かれます。それぞれに何種目かあって全部で9種目あり、日本は4種目に出漕しました。結果は次のとおりです。

PR1 W1×  7位(8クルー中)
PR1 M1×  15位(19クルー中)
PR2 M1×  10位(11クルー中)
PR3 M2-   4位(5クルー中)

率直なところ、世界とは相当の差がありますが、これは現段階では仕方ありません。わたしとしては世界の実情を知ることができて非常によかったと思っています。いろいろやるべきことがあります。まず選手の発掘・勧誘が第一、そして指導者・サポーターの確保と練習環境の整備などです。

例えば今回の「PR3、M2-」の2人は広島と東京に住んでいて、月に2~3回相模湖に集まってきて練習したそうです。聞いてほんとうに驚き、「よく頑張ったね」と声をかけましたが、今後どう改善していくのか、大きな課題です。

最終日の夜、全選手・役員が揃ってブルガリア料理を楽しみました。わたしも全員と個々に話をしましたが、パラの選手がみんな明るく前向きなことが嬉しく印象に残りました。

その他いくつかのエピソードを書いておきます。

  • 最終日に、渡邉正人駐ブルガリア大使が朝早くから応援に来られました。ボート観戦は初めてとのことで、いろいろご説明した後、艇庫にもご案内し、日本選手にも声を掛けていただき一緒に写真も撮りました。FISAも気をきかせて、女子エイトの表彰式で記念品プレゼンターに指名してくれ、喜んでおられました。

  • 2020東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプ誘致のために、6つのボートコース所在地(登米市、下諏訪市、川辺町、恵那市、長良川関係3町村、菊池市)がテントを張り、案内書を配ったり、ビデオを見せたりして、一所懸命でした。ただ まだ最終的にオリンピックへの参加が決まっていない段階なので、簡単には決めないようです。
  • 17日(月)のFISA総会で、組織委員会の中島大祐ボート担当スポーツマネージャーが来年8月に開催する「2019年世界ボートジュニア選手権」についてプレゼンを行い、参加を呼びかけました。わたしもその前座として2分程「オリンピック・パラリンピックの準備は、海の森コース建設も含めて極めて順調」とスピーチをさせられました。
  • FISA総会には60カ国近くが出席しましたが、驚いたのは、ローランド会長が開会前に全席をグルッと回って声を掛けて歩いたことです。大変な心配りで感心しました。
    なおこの総会で細淵雅邦理事がFISAの理事として再任されました。また日本からは他に千田隆夫理事と日浦幹夫理事の2人が、委員としてFISAでの役目を務めています。
  • FISA総会後の懇親会の席で、かの有名なレッドグレーヴ氏に紹介され、写真も一緒に撮ってもらいました。オリンピックで5大会連続金メダリストというイギリスのスーパーオアズマンで、日本でいえば長島茂雄さんのようなスターです。少々ミーハーですが、大満足でした。

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9月27日(木)、今年度第2回の定例理事会が開催されました。審議事項が14、報告事項が6と、議題が合わせて20もあり、2020年を前にして活動範囲が広がり、皆さん大変忙しくなっていることの証左だと思います。

ここでは、決定事項のうち特に重要な2件だけをご報告します。

  1. 2019年度の大会日程を決定しました。大きな変更点は2点です。ひとつは、2つの大会を止めることにしました。「全日本ジュニア選手権大会」と「全日本軽量級選手権大会」の2つです。「全日本ジュニア」の方は開催地である菊池市(班蛇口湖)の都合で止めることになりました。菊池市の長年のご協力に感謝申し上げます。 「全日本軽量級選手権」については、最近の世界ボートの大きな流れに鑑みて、全日本選手権の中に一部の競技種目を取り入れる事とし、独立の大会としては今年をもって最後としようということです。先に紹介した世界選手権と同じかたちになるわけです。

    もうひとつの変更点は、「全日本選手権大会」の開催時期を早め、5月に行うことにした点です。先に協会としての変更案(小艇と大艇を分けて、3月と6月に全日本選手権を行うという案)を公表し、広く意見公募を行い、多くのご意見・ご提案をお寄せいただきました。それらを受けて、協会として議論を重ねた結果、小艇・大艇の分離開催は、今回は見送り、時期を5月(6月ではなく)にするということに決定したわけです。いろいろご意見おありとは思いますが、ご了承願いたく存じます。

  2. もうひとつご報告しておきたい決定事項は、「日本ボート協会ビジョン」(ポスト100周年計画)の作成についてです。2020年は「東京オリンピック・パラリンピック」開催と「日本ボート協会創立100周年」という大イベントが2つ重なる重要な年です。この機に次なる100年を見据えたビジョンをまとめ、できれば2020年11月に予定している「100周年記念式典」の場で発表できれば、と考えています。

    背景としては、日本のボートを取り巻く環境が大きく変化してきているという認識があります。ちょっと考えただけでも軽量級中心の考え方からの脱却(オープンの強化)とか、クラブ組織の育成とか、レガシーとしての「海の森ボートコース」の活用策とか、さらなる国際化の進展(FISA、ARFとの関係)等々、方向性を求められる案件が山積しています。

    策定プロジェクトのリーダーは松元崇理事にお願いしました。サブリーダー叶谷彰宏氏(国際委員)メンバーは理事長と5本部長という体制で進めてもらいます。

    理事会の席で、平岡英介理事から「若手の意見を十分に取り入れ、若手に大きな夢を与えるビジョンを」という意見があり、重要なポイントだと思いました。

以上