公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第58信)

2017年6月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

第39回全日本軽量級選手権大会が5月26日(金)から3日間、戸田コースで開催されました。275クルー、665名の軽量級の選手が男子6種目、女子3種目で熱戦を繰り広げました。海外からも台湾の高校生・大学生クルー、香港の大学生クルーとクラブチームが参戦、特に香港クルーはすばらしい漕ぎで、女子シングルスカルと男子クォドルプルの2種目の優勝をさらっていきました。その他の優勝は男子ペアが日本大学、男子シングルスカルがリオ・オリンピック代表の中野紘志選手(新日鐵住金)、男女のダブルスカルが明治安田生命、男子舵手なしフォアが東レ滋賀、そして女子クォドルプルと男子エイトが明治大学で、明治のエイト優勝は初めてです。各優勝クルー、おめでとうございます。

この全日本軽量級選手権がもう39回目になるということに今さらながら驚きました。始まった経緯を知りたいと思いましたが、さすがに畑弘恭協会顧問(一橋大OB)が今回のプログラムに『全日本軽量級レガッタの変遷を追って』と題して詳しく書いてくださっています。ぜひ読んでおいてください。

それによると、軽量級が世界選手権に取り入れられたのは1974(昭和49)年、それを受けて5年後の1979(昭和54)年に第一回の全日本軽量級選手権大会がスタートしました。オリンピック種目に入ったのは1996(平成8)年アトランタ大会からです。

長い歴史をもった大会で、日本の軽量級の発展に大いに寄与してきました。しかしみなさんご存知のように、オリンピック種目から軽量級なしフォアが削られるなど、状況が変わってきています。その中でこの大会の位置づけをどうするか、少し検討してみようと思っています。

ポイントは次の通りです。

  1. シーズン最初の全日本大会です。冬場の練習の成果をぶつける最初のチャンスとして、軽量級を中心としつつも一部オープン種目(例えばシングルスカルとかペアなど)にも門戸を開けないだろうか。
  2. ナショナルクルーは6月初めからヨーロッパでの合宿、ワールドカップ参戦というスケジュールになります。海外遠征の前に一度、国内でのレースを経験させられないだろうか。
  3. 一方で、今回も来日している香港、台湾などから、「国別対抗レース」のような国際レースを日本で開催してもらえないかという意向を示されている。

以上のような問題意識を踏まえて検討するつもりです。ご意見をお寄せ下さい。

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この大会の2日目と3日目の両日(5月27日、28日)、昼の時間を利用して、ナショナルクルーのタイムトライアルが行われました。強化練習の現時点での成果を確認しておくためです。

女子シングルスカル(3クルー)、男子シングルスカル(4クルー)、女子ダブルスカル(3クルー)、男子ダブルスカル(3クルー)、男子クォドルプル(2クルー)の5レースを両日とも同じクルー編成で戦いました。男女ともオープンクラスの選手も数名含まれています。

わたしは2日間とも車で伴走して、久し振りにしっかり観させてもらいました。タイムとか技術面についてわたしがあれこれ言う立場ではありません。ただ1点、非常に驚いたのは、どのクルーとも後半のタイム落ちがほとんど無くなったことです。最後の第4クォーターが一番良いタイムというクルーもいくつかあります。ギザビエNSD(ナショナル・スポーツ・ディレクター)の新しい強化トレーニング方式の明確な成果で、これには感心しました。

この大会の1週間前の5月22日(月)、わたしは荒川で練習するナショナルクルー(シニア、U-23)を観ながら、長畑芳仁強化委員長から新しいトレーニング方式、すなわちギザビエ・メソッドについて詳しく解説してもらいました。まさに革命的変化ですが、とてもわたしからここで詳細を述べることはできません。ぜひギザビエNSDあるいは長畑委員長から直接聴くチャンスを作ってみてください。

わたしが理解した範囲内でポイントは5つです。

  1. まず日本ボート界の「マインド セット」が大前提だといいます。
    何十年も負け続けて、「can’tdo」になっているマインドを「can do」に変えなければならない。またボート人生も30歳くらいまでは毎年着実に成長しつづけられるようなトレーニングに変えるべきだ。それは可能だというのです。
  2. 日本人は練習のし過ぎだ。重要なのは「量より質」で「メリハリ」が大事。休養も練習の一部だというのです。という半面、面白いのは合宿中の休日はナシで毎日出艇、ただし原則として1日午前だけの1回出艇が多いようです。
  3. 水上練習の基本は「低ピッチ(16-18)高強度(ハートレート150以上)トレーニング」です。目的とするところは「正しい技術の獲得、パワー向上、怪我の予防、メンタルタフネス」ここまでは分かるのですが、衝撃的なのはピッチ17で心拍数を150まで上げる、という点です。最初は誰もが不可能だと思いましたが、ともかく一本一本長く強いオールを全力で引くことに集中するしかない訳で、その結果驚いたことに、今では何人かこのレベルに到達した選手がでてきたそうです。
    併せて、ボートは有酸素運動であり、「乳酸閾値を向上させる」ことが大事だ、つまり激しい運動をしても血中の乳酸値が上がらないような身体づくりのためにもこの「低ピッチ、高強度」トレーニングが有効だといいます。
  4. 日本人の弱点である上半身の筋力・筋持久力の強化のための「サーキットトレーニング」も今までの日本式をはるかに越える厳しいもののようです。これはホームページに動画で紹介されているので観た方も多いと思います。1セット17、18種類のトレーニングで1セット約30分かかるものを4セットやるので2時間かかります。例えばベンチプル55Kgを70回×4セットをできるだけの筋持久力の養成が目標だといいますから、相当なレベルです。
  5. 目標とすべき「Ideal Time」を種目ごとに定めています。メダルを取れるレベルのタイムと考えてよいでしょう。これへの到達度によって、世界大会への参戦の可否を決めます。つまり「経験のために参加させる」といった甘い考えは捨てる時なのです。

ナショナルチームは6月10日からヨーロッパ遠征です。6月のワールドカップ第2戦(ポーランド)、7月の同第3戦(スイス)、同じく7月のU23世界選手権(ブルガリア)を経て、9月の世界選手権(アメリカ)を目指します。

健闘を祈ります。

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今月は大会や行事が重なって、みなさんにお伝えしておきたい話題がたくさんあるのですが、全体にちょっと長くなりました。少し簡潔におつたえしたいと思いますのでご容赦ください。

  1. 信毎諏訪湖レガッタの第40回記念大会が5月13、14日、下諏訪 町漕艇場で開かれました。地方のレガッタとしては有数の大会で、仙台や富山などからも多くのクルーが参加し、にぎやかなレガッタでした。
    地元下諏訪町長の青木悟さんが、ボート並びにパラローイングを熱心に支援してくださり、感謝に堪えません。
    記念の交流会も100名以上の関係者で楽しく進みました。われわれボート仲間の愛唱歌「琵琶湖周航の歌」の作詞者小口太郎さんは、岡谷市の出身で、歌ができて今年で100周年ということです。会の最後に全員で大合唱、ほんとうに名歌です。諏訪湖の対岸に小口太郎の銅像が立っており、帰路に見てきました。
    オリンピアンの会が平田明久理事長以下6人も集まって中学生のエルゴ指導をしてくれ、これも大好評でした。
  2. 「オリンピックボート選手役員の会」の定期総会が、5月27日(土)に戸田で開かれ、15名の会員オリンピアンが出席しました。発足して2年目、オリンピアンとしての貴重な経験を若い世代にしっかり伝えていき、日本ボート界の長期的な発展に少しでも貢献したいという趣旨の会です。
    岩崎洋三会長から2016年度の活動報告がありましたが、エルゴ指導会は定着したこと、スポーツ庁との関係が深まりいくつかの支援が得られるようになったこと、そして学校教育でのオリンピアン講演会などを共同で検討していることなどが報告されました。
    終了後、日本ボート協会のメンバーも加わり、懇親会で盛り上がりました。
  3. 審判委員会では年に2回、初夏の「軽量級選手権」の時と、秋の「新人選手権」の時とに「審判研修会」を行っています。今回が第80回、つまり40年間続けてきている訳で、世界に誇る日本ボート審判団の結束の秘密も、ここに根っこがありそうです。
    5月27日の夜、今回参加した66名の審判団の恒例の懇親会に出席してきました。この研修会で、C級からB級への昇進試験も行われていて、その合格発表もこの懇親会の席で行われます。今年から審判委員長になった流石淳子さんが台上(といってもビールコンテナの上)に上がって結果を発表します。10名受験したのですが、なんと合格者はたった2名、東京都の成田泰久さんと熊本県の中村友香さんの合格が発表されると、会場は大喚声、本人はもちろん、指導してきた仲間もみんな涙、涙です。
    わたしはこの様子にほんとうに心から感動しました。こうした試練を経て育った審判団が、日本ボート界を支えているのだと確信しました。
  4. 瀬田漕艇倶楽部のことは、みなさんよくご存知だと思います。地域に根付いた「総合型地域スポーツクラブ」としては、間違いなく突出した存在です。4年前に亡くなった古川宗壽さんが1977(昭和52)年に創設したこの瀬田ローが、創立40周年を迎えました。
    代表理事の太田俊二さんと専務理事の鵜瀬正樹さんが5月27日現況を報告にきてくれました。現在の会員数は177人、年会費3万円の資金をベースに、驚くほど多彩な活動を繰り広げている状況を詳しく聴いて、ほんとうに感心しました。
    まず3大事業と呼んでいる活動があります。
    1. 1993年から続けている「Head of the Seta」の開催
    2. 2006年からの「びわこ市民レガッタ」の開催
    3. 2008年から主催を引き受けた「マシンローイング大会」
    その他に普及活動としての「ボート体験教室」の開催や、さまざまな支援活動(「全国豊かな海づくり大会」とか「大津市民レガッタ」など)の実施など、ほんとうにすばらしい活動ですが、わたしが高く評価するのは、ひとつは「漕艇通信」の発行です。毎月発行していて、一度も休刊はないそうです。ふたつ目は、会員がいろんなレガッタに参戦して立派な成績を修めていることです。「いずれオリンピック選手が出てくるといいね」と激励しました。
  5. 6月28日から伝統の「ヘンリーロイヤルレガッタ」が始まります。日本からも毎年何クルーかが参戦していますが、残念ながら成績はあまり芳しくありません。
    聞くところによると、今年は三菱ボートクラブが声をかけて明治安田生命、NTT東日本、トヨタ紡織、東レ滋賀などのトップ選手でクルーを組み「勝つために参戦する」気構えだそうです。「わが意を得たり!」で、ぜひ頑張ってきてください。
  6. 5月19日(金)日本ボート協会の「平成29年度第1回定例理事会」が開催されました。本当はいくつかご報告しておきたいこともあるのですが、今月はもうくたびれました。いずれご報告するということでご容赦ください。
  7. 最後に、日本ボート協会の鈴木仁理事が5月18日に逝去されました。鈴木さんはコンプライアンス担当理事として、協会のコンプライアンス・ガバナンス等一手に担当していただいておりました。まことに残念でなりません。ご冥福をお祈りいたします

以上