公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第19信)

2014年3月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

寒い寒いと言っているうちに、いよいよ水ぬるむ3月です。本格的なボートシーズンもすぐそこまで近づいて、全国のオアズパーソンのみなさんも元気に体造りや基礎練習に励んでおられることと思います。また2月は冬季オリンピックのTV中継で、日本代表選手の活躍に一喜一憂しましたね。「スポーツっていいなあ……」と感動することが何度もありました。

2月のボート日本代表強化選考合宿は2月11日(火)から10日間戸田でおこなわれました。関東地方は2回の大雪におそわれ、またそれ以上に風の強い日が続いて選手諸君はそうとう苦労したようですが、なんとか無事に合宿も終わったようです。

毎月の合宿でコーチ陣が選手をじっくり観て、タイムトライアルなどもおこないながら少しずつ絞りこんでいって最終的に日本代表クルーを決めるのですが、今年は2つ新しい考えを取り入れました。一つは選手育成を継続的におこなう観点から「メダル獲得者選手」枠を設け、前年度のおもな世界大会でメダルを獲得した選手は選考レース抜きで優先的にこの合宿に参加できるようにしています。シニアで男女あわせて10名います。もう一つは「再チャレンジ」枠を設けたことです。「日本代表になりたい」という強い意志をもち自らトレーニングしてきた選手に常にドアを開けておく意味で、毎回合宿初日に「再チャレンジレース」をおこないます。この2月の合宿でも、シニアで5クルー7名、U―23で3クルー5名が再チャレンジレースをへて合宿に参加しています。

強い選手には世界大会でメダルを取ったという自覚のもとに、より高みを目指してもらう。同時に日本代表を目指してチャレンジしたいという選手には常に可能性の扉を開いておく。こうした意味合いから考えてもいい制度だと思います。

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冬季オリンピックはTV観戦でずいぶん楽しませてもらいました。高梨沙羅ちゃんと浅田真央ちゃんの失敗にはがっかりし、同時にかわいそうでたまりません。17歳や23歳にとっては厳しすぎる経験だなあと思いましたが、ちょっと格好よくいえば「力を尽くして敗れたものもまた美しい、これがスポーツなんだ」とも思いました。

高梨沙羅ちゃんなど17歳にして、すでにほとんど技術的には完成しています。ワールドカップでは多分50勝くらいするのではないでしょうか。今回は「勝利の女神」がちょっと横を向いていただけだと思います。

スポーツ団体の長として考えたことを2~3書いておきます。

  1. 今回のメダリストをみると、一方で10代の才能あふれるタレントが勢いに任せて勝ったというケースがいくつかあります。フィギュアの羽生結弦やスノーボードハーフパイプの平野歩夢、平岡卓などです。才能あふれるタレントをどうやって発掘するのか、そしてどうやって育てるのか、いまボートでもトライを始めたところですが、ぜひ研究していきたいテーマです。
    もう一方で超ベテランの活躍も目を引きます。41歳でオリンピック7回目参加となった葛西紀明のジャンプ銀メダルがその最たるものですが、スノーボード女子パラレル大回転の竹内智香・ノルディック複合個人ノーマルヒルの渡部暁斗などのことばには、なにか若者とは違った深みが感じられます。
    要はベテランと若手、その両方がバランスよく継続して繋がっていくのが大事なんだろうなあ、と思わされました。
  2. スピードスケートが全くふるいませんでした。橋本聖子団長(日本スケート協会会長)もその立場上、さぞ悔しく辛い思いをされていることと推察します。
    スピードスケート、特に短距離は日本のお家芸ともいうべき種目だっただけに、今後スケート協会としてどのような復活対策をとるのか、注目してみていきたいと思います。
  3. メンタルトレーニングの重要性をあらためて感じました。昨今のマスメディアのように、おたがい競争であおりたてて期待だけ非現実的レベルにまで高める時代には、普通のナイーブな精神では耐えられないと思います。ボートでもすこし研究しておきたいテーマです。
  4. スポーツはやはり、結果としてのメダルよりも、勝つためにすべての努力を傾注した選手の人生そのもののほうがずっと価値がある、勝った選手、負けた選手たちのインタビューを聞いて、あらためてその思いを深くしました。
    オリンピックを目指しての短くても4年、長ければ20年にもおよぶ努力の人生は、スポーツというある意味単純な目標を追っかけているだけに、じつに凝縮されたすばらしい時間であったと思います。

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毎日新聞の北九州版に載った記事なので、あまり多くのひとは見ていないと思いますが、「メダルポテンシャルアスリート」としてボート競技を選び、この4月から大分・日田林工高へ進む福岡の中学3年生の記事が大きく載っています。福岡・新宮中学3年生の大門千紗選手の記事です。

前にもちょっとふれましたが、いわゆる「タレント発掘」の第1号選手で、たいへんな能力・才能をもった逸材です。どんなことがあっても、彼女が持つ才能・可能性をおおきく開花させる責任が、われわれにはあります。

いちばん心配しているのは、上にも書いたマスメディアの過剰反応ですが、ある程度はそのことを覚悟しながら、全力を挙げて育てていきたい、そう思っています。

以上