公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第16信)

2013年12月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

2020年開催の東京オリンピックを機に新設する「(仮称)海の森ボートコース」の建設に向けて、ほんの少しずつですが動きが出始めたので、ご紹介しておきます。

もちろん既にIOCに提出済の基本計画がベースになるのですが、まだごく粗っぽい素案レベルなので、詳細計画を詰めていかなくてはなりません。特に莫大な予算が必要な大工事なので、東京都の「オリンピック・パラリンピック大会準備部」と、ひとつひとつ細かく打ち合わせ・確認をしながら決めていく必要があります。

完成納期のデッドラインは2019年3月ですが、1年前倒しで造るくらいの意気込みでやらなくてはならないでしょう。

来春早々にも日本ボート協会内に「(仮称)海の森ボートコース建設プロジェクト」を発足させます。プロジェクトのヘッドは、基本計画作りから担当してきて本件について一番詳しい施設委員長の山崎佐知夫さんにお願いすることにしています。そして土木・建築技術者等も含めた多方面の専門家スタッフを集めた強力なプロジェクトチームにしなくてはなりません。土木・建築技術者については、幸い技術力の高い建設会社が協力を申し出てくれています。その他にも多くの専門家の皆さんのご協力をぜひお願いします。

具体的な動きを3つだけ報告しておきます。

  1. 10月9日 山崎委員長と建設会社のお二人の専門技術者が現地視察を実施し、東京都の担当者に対し、いくつかの提案をしました。
    1. 返し波の少ない低反射護岸の検討
    2. 風の影響に対して公平な競技レーン(特にスタート地点)とするための対策
    3. 将来利用のための公共交通機関の完備  等々
  2. 11月1日 わたしと山崎委員長が東京都のスポーツ振興局の課長さんと環境局の部長さんにお会いし、われわれの考えをお話しするとともに、いくつかの要望をお伝えしました。
    1. 是非、国際水準のボートコースを造りたい。そのためには東京都の担当者も、諸外国の一流コースを見学して「これだ!」というイメージを持ってほしい。(一緒に行きましょう)
    2. オリンピック後の恒久的な使用を見据えた陸上施設を造り、将来、地方の大学やクラブに払い下げ(賃貸)するようにしたいと考えているが、どうだろうか。
    3. 「海の森コース」という名にふさわしい美的環境(特に森作り)を整備してほしい。
      (これに対しては、いま埋め立てを進めている土地はまだ発熱している状態で、当面植栽は無理だとのこと)
  3. 11月12日 わたし、山崎委員長、そして建設会社の専門家諸氏が集まって、情報交換をするとともに、今後どう進めていくかについて意見交換をしました。次のような点は検討に値すると思います。
    1. 本当に国際レベルのすばらしいコース・施設にするためには、オリンピックまでの短期ビジョンに留まらず、2020年以降も見据えた長期ビジョン(街づくりとか都立公園としてのイメージ)を策定しておくことが大切だ。
    2. 日本のボート競技の基盤をつくる大プロジェクトであり、大きな予算が必要な仕事だ。日本ボート界の総力をあげて取り組むべきだ。豊田章一郎名誉会長はじめVIPの皆さんにもぜひお力添えをお願いすることとしたい。

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11月5日、古川宗壽さんが亡くなられました。まさにボートに捧げた生涯で、謹んで心よりご冥福をお祈りいたします。

わたしが古川さんと深くお付き合いするようになったのは、1987年にわたしが強化部長になった時からです。日本ボートが強くなるためには、専任のフルタイムのナショナルコーチが絶対に必要だと考え、古川さんにお願いして、東レから日本漕艇協会に出向してもらったのです。東レでの仕事を離れるのですから、たいへんな決断だったと思います。(東レさんもこの異例の人事をよくぞ認めてくださいました)

それからは強化に必死で取り組んでくれました。特に国際レースへの取り組みは格段に進歩し、海外情報も的確に掴めるようになりました。それが1991年のハリソンコーチ招聘につながったのです。ただ、いろいろな面で(わたしの力不足もあり)古川さんの構想通りには進まず、ずいぶんイライラされたこともあったようで、今でも申し訳ない気持ちです。

3月21日、鈴木壮冶さんと一緒にお見舞いに伺いました。入院中なのにわざわざ半日だけ自宅に帰ってきて、一緒に昼食を食べながら、3人でボートの「来し方行く末」をぞんぶんに話し合いました。その後もいくつかのレースでお会いしましたが、早すぎるご逝去は残念至極としかいいようがありません。

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これからの話は、ボートというよりは経営の話なのですが、「指導者のあり方・役割」としておおいに共感をおぼえたので、ちょっと書いてみます。ボート界の変革・強化にもドンピシャに繋がる話だと思います。

2週間ほど前、LIXIL社の社長の藤森義明さんとゴルフをしました。62歳で学生時代はアメリカンフットボールの選手だったというだけに、よく飛ばすしゴルフは完敗でした。その時いろいろ経営の話を聞いて感心したのですが、たまたまその1週間後、NHKで藤森さんが「人材育成」について話す番組を観て、一層共感をおぼえたのです。ポイントは次のようなことです

組織のトップの役割は、『①変革を起こす ②人を育てる』この2つだけだ。他にはなんにもない。

まず「変革を起こす」ためには、「現状に満足しない人」「より高い所を目指す人」の集団をつくらなければならない。そのためには、徹底して現場に足を運び、自分の考えを訴えつづけるのだ。

次に「人を育てる」だが、これは教育訓練を続けることに尽きる。人の潜在能力は無限にある。それを信じ、「SPREAD」(伸ばす)するための機会と課題を与えつづけるのだ。人は教育でかならず伸びる。

藤森さんは長くGE(ゼネラル・エレクトリック社)に勤め、有名なジャック・ウェルチさんの薫陶をうけ、GEの副社長から2年前に今のLIXIL社に移られました。ですから、この考え方は、GE流なのでしょう。

組織の変革と強化について、言い尽くしていると思います。

以上