公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第6信)

2013年2月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武

この手紙も今回が第6信、9月に書き始めてから半年が過ぎたわけです。 「日本のボートをもっと強くしたい。オリンピックでメダルを取りたい」という念いで、 「そのためには、どうしたらいいのか」について幅広い人たちの意見を訊き、話し合ってきました。

ボート界全体についてさまざまな意見・提言をいただきました。それぞれ貴重なのですが、 ここでは「強化」に焦点をしぼって、わたしのこころに強く響いた意見を2つだけ紹介しておこうと思います。 (いずれも何人かの意見をまとめたものです。)

1.「ハイレベルのレースに常に挑戦することが大事」
ヨーロッパの強豪クルーは、国内レースと同じ感覚でハイレベルの国際レースに常時参戦しています。
日本が強くなるためには、厳しいレベルの国際レース経験をもっと数多く積むことが絶対に必要です。 国内レースだけで満足していてはだめで、結局ヨーロッパでのレース (ワールドカップ、U-23選手権、ジュニア選手権など)に常に「勝つために」挑戦し続けることが大切なのです。
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、 中国などはヨーロッパ内に自国の拠点(ボートハウスなど)を設けて、常に安定した条件で参戦しているようです。 「日本もぜひそうして欲しい」と選手・監督は要望しています。予算のこともあり簡単ではありませんが、検討しようと思っています。
またこのところ中国、韓国、香港などのアジア勢が相当強くなってきています。 まずここに勝つことを目標に、アジアでの試合も重視していきたいと考えています。
2.「継続的に選手を育成していくことが一番大事」
どのスポーツ競技でも、ある日突然に強い選手が現れるなどという奇跡的なことはめったに起りません。
まず素質のある人材をどのようにして発見・発掘するか、そしてその個々の選手をジュニア、 U-23、シニアと「継続的に」育てていくシステム、そこが一番大事なことだと、皆さん口を揃えて言います。 日本ボート協会としてそうした「継続的な選手育成システム」を確固たる信念と方針・制度に基づいて確立することが、 世界で勝つための必要条件のようです。
水泳、体操、フィギュアスケートなどでは「3歳から始めた」などという話がありますが、ボートではちょっと無理でしょう。 しかし中学生からの発掘は可能のような気がします。長良川での「全日本中学選手権」への参加選手も関係者の尽力で徐々に増えて、 200人くらいになっています。なんとかここから有望選手を発掘し、次のステップに繋げていきたいものです。 ただ「ジュニア、U-23、シニアへと進んでいく時の繋ぎがうまくいっていない」という声もあるので、 そこはぜひ工夫しなくてはなりません。

なお、日本ボート協会では上記のことも視野に入れ、 内藤元巳さん(普及委員会アドバイザー)の提言を受けて「ボート普及連鎖プログラム」を昨年秋からスタートさせています。 ちょっと難しい名称のプロジェクトですが、目的は、 各地域でのボート普及活動を(上述のような)選手発掘・育成にしっかり結びつけていこう(連鎖させよう)というものです。 各地で順次説明会・意見交換会を開く予定ですので、よろしくお願いします。

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1月はさすがにボートレースがなく、選手たちにとっては基礎技術・基礎体力をしっかり固める時期でしょう。 そして各地でエルゴ大会が真っ盛りのシーズンです。

「シニア日本代表選考1月合宿」が15日から10日間、戸田コースで始まりました。 14日の大雪でスケジュールがちょっとずれたようですが、男子35名女子9名の選手たちはみな元気に集まってきています。 16日に戸田に出かけ、短時間でしたがスカルと舵なしぺアでの練習の様子を見てきました。 阿部肇ヘッドコーチと武良誠コーチに全体の状況を聞いたあと、選手諸君に「寒いなか大変だろうが、 日本代表を目指して気力を込めて良い練習をして、成果を持ち帰って欲しい」と激励してきました。

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ここからは気楽なボートの話題を2つ。

昨年12月の総選挙で、ボート出身者の5人が衆議院議員に当選しました。 これで参議院の1人を加えて、ボート出身の国会議員は自民党3人、民主党2人、無所属1人の計6人になりました。 ちょっとした勢力で、嬉しい限りです。ぜひともボート精神を発揮して、スポーツの振興、 ひいては日本国の発展におおいに貢献されることを期待しています。 せっかくですから「いちど集まりませんか」と声をかけているところです。

ところで1月16日(水)にNHK主催の「アマチュアスポーツ新春懇親会」に出た時に、 橋本聖子参議院議員とお話する機会がありました。なにしろオリンピックにスピードスケートで4回、 自転車で2回、計6回も出場しているスポーツ議員の代表的存在です。 「ボート出身議員が6人になりました」とお話すると「すごいですね。わたしも準会員に入れてください」と、 同じ北海道出身ということもあって、すっかり盛り上がりました。あとで名刺を見直すと「三男三女の母」とあって、 「議員を努めながら、凄い人だなあ」とあらためて尊敬してしまいました。

次は夏目漱石の話です。みなさん、漱石がボートを漕いだことを知っていましたか。 わたしはもちろん知らなかったのですが、古城庸夫さん(江戸川大学スポーツビジネス研究所)に教えられました。 「なにか文章が残っているのですか?」と聞いたところ、驚いたことに100ページ近い資料が送られてきました。 とても全部は無理なのでひとつだけ紹介しますと、1909(明治42)年1月の「中学世界」という雑誌に載った 「私の経過した学生時代」という漱石の談話筆記の一部です

「唯遊んだという方に過ぎないが、端艇競漕(ボートレース)などは先ず好んで行った方であろう。 (中略)私は好きでやったと言っても、チャンピオンなどには如何(どう)してもなれなかった。」

とにかく古城さんが収集しているボートに関する資料等々は大変な数で、 3000点以上にのぼるそうです。「今は狭い研究室にゴチャゴチャ置いています」ということですが、 なんとか「ボート資料展示室」のような施設を設けて展示できればと思います。

以上