公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第2信)

2012年10月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武

今シーズン3月と8月の2回、早朝の練習風景を観るために戸田コースに行ってみました。 6時前から自転車で追いかけたのですが、その混雑ぶりは聞きしにまさる驚くべきものでした。 夜にランプをつけての練習も多いようです。小艇が増え舵手なし艇が多いので、事故が本当に心配です。

練習環境が悪い、不十分だというのが今の日本ボート界(少なくとも東京のボート界)にとって大きな問題の一つであり、 なんとかしなければならないテーマです。その解決策の意味もあって、 戸田監督会の皆さんから「彩湖」で漕げるようにして欲しいという要望が以前から寄せられています。 彩湖は笹目橋のすぐ上の河川敷にある調整池(国交省が管理している)で、 わたしも見てきましたが、長さ3キロ弱ある静かな湖面でボートを漕ぐには絶好の環境です。 最近いくつかのクルーがエイトを浮かべて漕いでみたとも聞いています。 ただ調べてみると、難しい問題があります。 この調整池ができた時「湖面利用委員会(?)」(これになぜかボートは参加していません)という会で「モーターボートは禁止、 ボートもスピードが速くて水鳥などを驚かすのでダメ」というルールを決めたということで、 今はカヌーとウインドサーフィンだけが使っていて、そのへんの交渉がいるようです。

ボートで使えれば戸田コースの混雑緩和にずいぶん役立つと思います。 なんとかボートが漕げるようにしたいもので、わたしもいろいろ努力してみるつもりです。

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9月13日から16日までの4日間、第90回全日本選手権大会が戸田コースで開かれ、 男子8種目女子5種目のチャンピオンが決まりました。 好レース続きで、女子シングルスカルや男子舵手なしペアなどは、 どちらが勝ったか観覧席からではまったく分からないほどの接戦でおおいに興奮しました。

午後からは風も順風に変わり、好タイムが続出です。 舵手つきフォアの関電美浜は6分22秒81で圧勝。なかなかのタイムです。 女子エイトで勝った法政大学の6分46秒18も立派なタイムで、 へたな男子ジュニアエイトは負けるかもしれません。 そして男子エイトのチャンピオン日本大学の5分41秒18、 これも快記録です。躍動する力強い漕ぎっぷりには感銘をうけました。

記録を世界のレベルと比較するとどうなのでしょう。エイトでみると、 今年のオリンピックとワールドカップ3戦の優勝タイムは、5分48秒03、 5分26秒27、5分27秒47、5分40秒03でした。 (このデータは大先輩の堀内浩太郎さんがメールで知らせてくれました)。 逆風のオリンピックはともかくとして、まだ15秒前後の差はあるのがわかります。 ワールドカップの決勝に残るためには、5分30秒は切らないとダメなようで、 あと4艇身は強くなる必要があるわけです。

日大クルーに金メダルを首にかけてあげながら、 「君たち、35秒までならいけるか?」と聞いてみました。さすがに一人は「うっ!」と詰まりましたが、 もう一人は「日大クルーで出来ないことはない!」と強気でした。期待します。

世界のレースで決勝に残り、オリンピックでメダルを取ろうと本気で望むなら、 まず現在のわれわれの力を客観的に知り、認めなければなりません。その上でそのギャップをどう埋めるか、 しっかりした計画を立てたいと思っています。 9月から各層の皆さんの意見を聴く会を始めたのもそのためです。 幅広い皆さんの参加を頂き、建設的なご意見をぜひお願いします。

どのスポーツでも世界で勝てるレベルにくるまでには、こうしたプロセスを必ずたどっているようです。

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9月8日(土)に平成24年度定時社員総会が開かれました。 ボート協会が6月末に公益社団法人に変わったので、 臨時にこの時期に開かれたわけです(来年からは6月に開きます)。 新しく理事17名と監事3名が2年任期で選任されました。 そしてわたしが会長・代表理事に、木村新さんが理事長に任命され、 さらに4人の本部長(管理本部長藤居譲太郎さん、強化本部長小野寺等さん、 競技本部長山本伊知郎さん、普及本部長竹内浩さん)が決まりました

この席上、昨年のロンドン五輪アジア大陸予選における男子軽量級ダブルスカル代表選手選考において、 スポーツ仲裁機構から客観的合理性を欠くとの裁定を受ける事態を生じさせたことの反省に立って、 二つの改革を行うことが強化本部と管理本部から報告されました。

  1. 強化本部・強化委員会の体制と人事の変更
  2. ボート協会内に自主的紛争解決機関(裁定委員会)の設置

ここでは具体的な内容の詳細は省きます。ただ二度とこのような事態を発生させないよう、万全を期する覚悟です。

以上、新理事・監事一同、思いを新たに、 心を一つにして、日本ボート界の健全な運営・発展、 そして強化のために努力を重ねる決意ですので、皆さんの熱きご支援・ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

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ロンドンパラリンピック(8月29日~9月9日)のボートには 大竹麻理選手が女子シングルスカル(ASW1X 腕と肩だけで漕ぐ種目)に出場し、 成績は11位でした。全日本の最終日(16日)に戸田コースまで岡本悟監督と一緒に報告に来てくれました。 アダプテイブ競技は練習仲間も少なく、艇を水面に出すことひとつをとっても大変なのですが、 今回は諏訪湖のボート関係者が献身的にバックアップしてくれたとのことです。 本当にありがとうございます。 大竹選手もアダプテイブの先駆者として、これからも一層の健闘を期待します。

9月10日~16日の間、中国南昌市で第18回アジアジュニア選手権大会が開かれ、 日本からは男女のシングルスカルとダブルスカル計6人が参加しました。 結果は残念ながら金メダルはとれず、銀メダル2つ銅メダル1つでした。

この大会のことはあまり知られていませんが、イラン、ウズベキスタン、 クエートなども含め15ヵ国が参加したそうです。団長の相良彰敏さんの報告では、 全般的に中国の強さが際立ち、またスカル種目では韓国が急激に強くなってきたそうです。 (男子クオドルプルと男子ダブルスカルで金メダル)

実は、われわれの反省として、 これからはアジアの大会・レースをもっともっと重視しなくてはならないと考えています。 特に中国・韓国はそうとうな強豪です。まずここに勝たずしてなにが世界か、という訳です。 ちなみに来年(2013年)のアジアでの大会は、次の通り予定されています。(どれに参加するかは未定です)

3月 アジアインドア選手権(香港)
5月~6月 アジアカップ1(マレーシア)
9月 アジア選手権(中国)
10月 アジアジュニア選手権/YOG(ユースオリンピックゲーム)アジア予選会
(ウズベキスタン)
11月 アジアカップ2(香港)

また8月の世界選手権が韓国で開催されるので、このところ韓国は猛烈な強化をしているようです。

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今月もまたボート部OBの書いたおもしろい本を紹介します。

早稲田大学ボート部OB(昭和37年卒)野田知佑さんの『川の学校 吉野川・川ガキ養成講座』(三五館)です。 野田さんは卒業後、カヌーで日本はもとより世界中の川を漕ぎ巡ってきた、文字通りツーリング・カヌーの先駆者で、 ご存知のかたも多いと思います。その野田さんが10数年前から毎年、吉野川に30名の子供たちを集め、 川遊びの学校を開いています。何をやってもいい、ただとことんふらふらになるまでやる。魚を手掴みする、 10メートルの岩から飛び込む、ドラム缶の風呂に入る、等々。

「川ガキ」へ変身していく子供たちの息吹きがいきいきと伝わってきて、 思わず「俺もいっしょに川で遊びたい!」と思ってしまう本です。

以上