公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

インフォメーションINFORMATION

ボート競技と熱中症について

2008年06月02日
医科学委員会
はじめに

気候の温暖化に伴い、スポーツ活動に伴う熱中症に対する喚起が注目を集めています。熱中症の詳細については、 日本体育協会( http://www.japan-sports.or.jp/medicine/guidebook1.html)、
環境省(http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/ )をはじめ多くの団体がホームページ等で情報提供をしているので是非参考にしてください。 また、日本ボート協会でも「大会開催時の安全に関するガイドライン(2006年6月)」を作成しています ( http://www.jara.or.jp/info/2006/guidelines_competition.pdf)。

スポーツ活動時は身体運動による熱産生の増大の影響が大きいために、スポーツを行う暑熱環境、 スポーツをする人のコンディションおよび健康状態、体力レベルなどの背景を十分に考慮したうえで、 熱中症の対策を講じることが重要です。暑熱環境でのボート競技の練習やレース開催時には、 日本体育協会が推奨する「熱中症予防運動指針」【表1】は、練習や競技の継続の可否を判断する指標となります。

【表1】
表1

ボート競技は屋外のスポーツであり、「レースでは運動強度が非常に高く」、 「トレーニングでは運動時間が長くなることがある」という観点から、熱中症が生じる素因を含んでいます。 屋外の自然環境で行われるボート競技は、夏季の大会が多く、特に、中学選手権、高校選手権、 大学選手権等は学事日程の都合上、夏季休暇中の日本で一番暑い時期に開催されているという現状があります。したがって、 指導者は熱中症に関する事項を十分に理解し、確実な知識を持った上で、 レース・トレーニングにおいて選手の熱中症を予防しなければなりません。

暑熱環境については、まず気象条件を把握する必要があります。実際のレース、 トレーニング現場で気温のみならずWBGT(Wet-bulb Globe Temperature)が重要であり、 これに基づいて熱中症の環境因子による危険度を判断します。レガッタコースや練習水域においてWBGTを測定するために、 【図1】に示すような簡易型計測器が市販されています。次に、選手も自身の体調管理を十分に行い、過激な暑熱環境に望む必要があります。 小学生等の若年者や65歳以上の高齢者、高度に肥満の人、トレーニングをしていない初心者や体調不良者などは、 熱中症を発症しやすいことが知られていますが、ボートの練習や競技を行う人々の背景と気象条件に関する情報を知った上で、 ボート競技の特徴を十分考慮すれば、熱中症は予防可能です。

特に、重症型熱中症は、生命の危機状態にまで陥ることを認識しておく必要があります。 暑い時期には、選手の体調管理の徹底指導と、暑熱環境に対する厳しいチェックを行い、 熱中症を未然に防ぐことがなによりも重要です。ボート競技は自然環境の要素を含むスポーツであり、 暑熱環境に立ち向かう際の「入念な準備」と「撤退する勇気」の重要性を今一度強調します。

図1
【図1】(WBGT-103 熱中症指標計(暑熱環境計)、京都電子工業
ボート競技の熱中症事例

日本ボート協会は、戸田の全日本選手権大会等で救護活動をしていますが、 過去2年間救護を必要とした熱中症の選手が10名いました。やはり、暑い時期、時間帯に集中して発生していました。 熱中症という病名は、暑熱環境の影響で生じる様々な症状を包括した呼び方です。「頭が痛い」、「気持ちが悪い」、 「ボーっとして判断力が鈍る」などの症状に加え、「気を失う」、「倒れてしまう」など、急激に症状が始まることも有り得ます。 実際の事例を見てみましょう。

  • 20才 男性 全日本大学選手権出漕クルー
  • レース時期:8月
  • この日の気温・WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)を【図2】に示します。
図2
【図2】当日の気温・WBGT(戸田)

レース終了後、艇から船台に降りた後に気を失うように転倒し、すぐに他大学の艇庫に救助された後に、 担架で本部医務室へ搬送されました。医務室で診察時には、気分が悪い、吐き気がする、意識朦朧とする、 全身の脱力感があり思うように動けない、など多彩な症状を呈しました。点滴と冷却処置を行い1時間程度で症状は回復し、 大事には至りませんでした。

後から選手に聞いた話では、レースの1000mくらいまでは記憶があるがその後はあまり憶えていないとのことでした。 さらにこの選手は前日に37.5度の発熱があり、体調が悪かった可能性があります。

レース期間中では生死に関わるような重症型熱中症は発生しませんでしたが、 【図2】に示すように夏季の気象条件はとても厳しいため、今後も十分な注意が必要です。 熱中症は大きく二つに分けることができます。死亡に至るような重症型熱中症とそれ以外の熱中症です。 詳しくは日本体育協会等のウェブサイトを参考にしてください。 ボート競技は水上ではシートに座ってオールを握って水上でバランスを保つ必要があります。したがって、 軽症の熱中症であっても水上で熱中症による急激な症状が起こった場合は、艇がひっくり返る、 落水してしまうなどの状況が起こりうるため大変危険です。 「溺水」という観点や、 「気を失う」という観点からは、レースのゴール直後から、クールダウン、回漕、 船台に降りた後などのタイミングで、重要な注意・観察が必要となります。

熱中症は、暑熱環境条件選手のコンディショニングの条件によって発生します。 この2点については、以下のような項目に注意する必要があります。

暑熱環境を把握するために

  • WBGTの準備と実際の測定:「日本体育協会:熱中症予防のための指針」に則ったトレーニング計画
  • 気象庁のホームページによる気温、風速、相対湿度等の情報把握

選手のコンディショニングを把握するために

  • 連日の猛暑の中で疲労回復が不十分な状態
  • 不十分な水分摂取(減量目的の水分制限、食事制限など)
  • 睡眠不足
  • カゼなどによる体調不良