公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

インフォメーションINFORMATION

競技報告

2002年10月
強化委員会
監督 (社)日本ボート協会 飯塚 淳
1、 前回大会後の重点強化策

シドニー五輪では、軽量級男子ダブルスカルで初の決勝進出・6 位入賞を果たしたので、 アテネ大会では日本ボート界の悲願であるメダル獲得を最大目標に、引き続き軽量級 オリンピック3 種目(軽量級男子ダブルスカル(LM2X)・同舵手無しフォア(LM4-) ・同女子ダブルスカル(LW2X))に重点を置いて強化を進めている。 今大会はアテネへの過程の中で、特にこれらの重点強化種目において、 中国と如何に戦うかが大きなテーマであり、日本協会として最強のチームで臨むこととした。

強化方針は下記の通りである。
  • シドニーまではスカル系( 2 本オール)、スイープ系( 1 本オール)と別個に強化を進めていたが、 ローイングの基本動作は同一であるとの観点より一本化し、スカル選手とスイープ選手の種目間の行き来を可能とし、 選手間の厳しい競争を通じて競技力の向上を図る。
  • 日本協会としてオリンピックを目指す種目の優先順位を男子について( 1 )LM2X、( 2 )LM4-、女子は( 1 )LW2Xと 明確にし、日本代表を目指す選手の目標を判りやすくし、多くの選手に挑戦の機会を与える。
  • ジュニア期からシニアオリンピック代表選手まで一貫した強化体制を確立する。 具体的には大林JOC 専任コーチがヘッドコーチとして指導の核となり、又、 各年代で国際レースを経験できるようU19 対象とU23 対象の世界大会にも選手を派遣し、 将来シニア選手として活動することの動機付けの機会とするとともに、 有望選手には積極的に上位カテゴリーの大会に挑戦させる。
2、 選手選考の経過と大会対策

アジア大会は日程的に平成14年のシーズンの最終レースとなり、世界選手権の1 週間後の開催であることから、 選考合宿を経て最強メンバーで編成する世界選手権代表選手を核に一部女子種目については選考レースにより 代表選手を決定することとした。

選考合宿による選手選考は平成13年11月からスタートし、同年12月にかけて4 回実施したトライアルレースにより 平成14年1 月の選考合宿参加資格者男子31名、女子7 名を選考した。その後、1 月より4 月まで毎月強化選考合宿を 行い3 月に男子代表選手11名を、4月に女子代表選手3 名を選考した。男子は全て軽量級の選手であり、 世界選手権には軽量級種目で参加するが、アジア大会にはこれらの選手が軽量級とオープン種目の双方に 参加することとした。女子については戦力評価の結果、世界選手権派遣はせずにアジア大会を 最大目標とする軽量級種目の代表選手を選考した。女子オープン種目については6 月に選考レースを行い 3 名の代表選手を決定した。 また、男子エイトのコックスについては7 月の全日本選手権優勝クルーのコックスを代表とした。

選手選考後は強化合宿とし、4 月より9 月まで男子は延べ日数で国内56日間、ワールドカップ および世界選手権参加を含め海外38日間、女子は国内65日間の強化合宿を行い釜山入りした。

3、 現地でのコンディショニング

五年前に釜山で行われた東アジア大会時のレース会場から更に遠距離となった今大会では長時間に及ぶ移動時間が問題 となった。通常で一時間、渋滞の激しい時、あるいはバス運転手が道を間違えたときには二時間を要した。 ウエイトコントロールが必要な軽量級選手を多く含む日本チームには午前・午後の二回練習が必要であった。 練習初日は二往復したが五時間の移動は選手の疲労を増すばかりなので2 日目はランチボックスを手配した。 しかしこれも休憩場所が不十分であり、やはり選手が疲労する原因となった。結局三日目以降は午前の一回練習に切り替え、 ウエイトコントロールは更に食事制限することで調整した。これらのスケジュール変更と、 同行していた江花トレーナーによるケアのお陰で三日目以降は急速に疲労回復が進み、 レース期間は概ね良好なコンディションが維持できた。同じような移動距離が予想されるアテネではこれらの対策が重要になる。 (大林邦彦)

4、 各種目の試合経過と戦評

[1] LM1X (長谷)

世界選手権から好調を維持している長谷。マークするのはワールドカップ第一戦(ベルギー)で二位に入っている中国。 その中国と予選でいきなりの対戦となった。パワーに勝る中国がスタートから飛び出すがリラックスした良いリズムで追漕し、 中盤、先行する中国を捉えそのままゴール。決勝でも敗復から勝ち上がった中国との一騎打ちとなる。 予選同様先行する中国を1000m 付近で捕らえるものの予選よりもリラックスして漕ぐ中国にゴールスプリントで競り負ける。 勝負どころのスピード・パワーの改善が必要。(コーチ:大林邦彦)

[2] M1X (田辺)

35歳にして始めてのシングルスカルへの挑戦である。予選は良好な水面で余裕を持って一位通過。 決勝でも二位の確保は間違いないと期待したが、シングル歴の浅い田辺にとってはつらいラフコンディション。 艇のバランスに苦しみまさかの六着。悔いの残るレースになったがまだまだ発展途上の彼にとって、 来期以降のスウィープ種目に対しても多くの収穫あるチャレンジであった。(コーチ:大林邦彦)

[3] LM2X (武田・浦)

世界選手権で体調を崩した武田の回復が思わしくなく心配されたが、ドクター・トレーナーの治療のおかげで 何とかレースができる状態までに回復した。釜山入り後、体調に反してテクニックは劇的に改善され、 レースでもほぼ完璧なリズムで漕ぎ通し不十分な体調を感じさせない圧倒的な強さを見せてくれた。 不調(運?)だった今シーズンの鬱憤を晴らすような見事な漕ぎであった。(コーチ:大林邦彦)

[4] M2X (村井・吉崎)

故障者が出たため釜山入り後に再編成したクルーの為、バランスが落ち着かず艇のセッティングに時間を要した。 予選時に最終のリギングチェックを行い決勝に備えた。レース毎にリズムも改善し、ラフコンディションとなった 決勝では予想以上に安定したバランスを維持した。急造クルーながらメダル獲得を期待させる粘り強いレースであった。 (コーチ:大 林邦彦)

[5] LM4- (三本・矢野・小畑・久保)

アテネオリンピックに向けて、何としても中国に勝たなければならない種目である。世界選手権でも問題となった、 リラックスして安定した姿勢を維持することが課題である。瞬間的には良いスピードが出せるもののレース後半に 姿勢が崩れリズムが乱れる。決勝でも同じ失敗を繰り返し、中国に先行を許す結果となった。 ストレングストレーニングを含めたオフシーズンの練習が重要である。(コーチ:大林邦彦)

[6] M8+ (三浦・三本・浦・小畑・矢野・田辺・武田・長谷・久保)

8 人全員がダブルワークとなるこの種目は二回のみの事前練習でレースを迎えることとなった。 初のスウィープ種目となるスカラーを含むクルー編成は新たなチャレンジであるが、予想以上の対応力を見せてくれた。 軽量クルーながら強い逆風の中、平均体重90kgを越えるであろう中国クルーに対しよく善戦し、来シーズンのクルー編成に 更なる可能性を見出すことが出来た。(コーチ:大林邦彦)

[7] LW2X (内山・魚下)

予選はタイを終盤で抜き去り、決勝へ進出することができたが、500 mラップで中国、タイ、 北朝鮮に2 ~ 3 秒先行されていることが判明し気がかりとなった。予選後の2 日間 で前半からトップスピードが出せるイメージ 創りとポイント合わせをおこない、決勝への準備をすすめた。決勝では予想通り中国、タイ、北朝鮮に先行され、 500m地点を4 位で通過し、後半追いかける形となったが、予想以上に各国とも前半からハイペースな展開となったため、 1250m 地点で北朝鮮をかわしたものの、タイにはわずかに及ばず3 位でレースを終了した。(コーチ:西尾久也)

[8] LW1X (大澤)

レースが近づくにつれ徐々にスピードが上がってきた大澤だったが、実力が拮抗した中でおこなわれる決勝では スタートから高いペースをどこまで維持できるかが課題となった。 決勝はあいにくの荒天となり各選手とも強い逆風に押されてなかなかペースが上がらず、 大澤もボートのコントロールに苦しんだが、韓国をかわし、5 位となった。(コーチ:西尾久也)

[9] W1X (原田)

釜山入り後、原田のレンジを伸ばすためバランスの修正を重視し準備をおこなった。結果、1 本での進み方は良くなったが、 原田本来の持ち味である豪快な出力が薄れ、予選では韓国に先行を許す結果となった。予選での状況を打破するため、 決勝日の朝、急遽、リギングを変更しテストをおこなったところ、概ね状況が改善された。さらに決勝直前、 水面の様子が一変し逆風と高波が発生したため、再度リギングの変更をおこなった。決勝はスタート直後4 位であったが、 500m以降、荒天に苦しむ韓国、インドネシアを徐々に引き離し、準優勝を獲得した。 今回参加の日本選手団では最年少(高校3 年生)の原田だが、今後の日本女子ボート界の方向性を示す好レースとなった。 (コーチ:西尾久也)

[10] W2X (岩本・山内)

6 月にクルー編成後わずかな合宿を経ての挑戦となった。予選ではフリーウェイトとはいえ他クルーとの 体格的なハンディをまったく感じさせず、スタートから終始レースをリードし大差で予選を危なげなく通過。 中国は別の組で予選を通過し、総合のタイムでは日本は中国に次いで2 位であった。予選通過のタイム差から 決勝での苦戦と北朝鮮との前半での競り合いが予想された。予選はクルー編成後初のレースであり、 コンビネーションが乱れがちだったことから、その部分を修正して中国との差を縮めることに専念した。 決勝は強烈な逆風であり、オープンウェイトとはいえ中国との体格差がそのまま結果として出てしまい スタートからじわじわと艇差を広げられてしまった。しかし、3 位以下をまったく寄せ付けなかった点は 堂々の銀と評価できる。決勝のコンディションが静水でなかったことが悔やまれる。 この漕力のまま軽量級でいければ・・・と期待の膨らむ挑戦であった。(コーチ:水谷達也)

5、 競技の総評と反省

日本協会としてはオリンピック決勝レベルにあるLM2Xをフラッグシップに、重点強化している男子軽量級種目のLM4-及び LM1Xで中国を破り金メダル3 個を獲得し、エントリーする10種目全てについてメダルを獲得することを アジア大会における目標としてきた。しかしながら、北京オリンピックの開催が決定し選手強化を強力に推進している 中国は、世界選手権にはほとんど選手を送らず今大会に照準を合わせて来ており、予想通り手強く、 日本はLM2Xの1 種目のみが中国を破ったに止まり他は全て中国の後塵を拝した。 日本のメダルは金1 、銀5 、銅1 の7 個であり3 種目についてはメダル獲得は成らなかった。 中国が13種目中12種目を制し圧倒的な強さを示した。中国と日本以外に金メダルを取った国は無く、 開催国韓国は銅メダル3 個に止まった。

日本の男子軽量級については、そのトップ選手はオリンピック決勝レベルにあり、その次の選手も中国と競い合うレベルにあるが、 女子については中国との力の差は大きく、ジュニア期からの有望選手の発掘育成を継続して強力に推進して行く必要があると判断している。 今回高校生ながら銀メダルを獲得した選手もいるので、このような選手を継続強化し男子軽量級と共にアテネにつなげて行きたい。

[ 選手村の生活]

トレーナーの立場から

JOC 医科学専任スタッフ 江花洋子

男子選手は世界選手権後1 週間、女子選手のうち3 名は国体後5 日間というハードスケジュールの中での大会は、 少なからずベストコンディションとは言い難い状態だったと思われる。特に男子選手は長時間の移動と時差 ぼけもあり、 口数も少なかった。そんな状況だったため、トレーナーとしての仕事は大繁 盛で忙しい毎日だった。どんな条件下でも、 その時のベストパフォーマンスが出せるような精神力が必要であり、そういう意味では今回の結果は十分評価されると考えている。 今大会ではボート競技には珍しく選手村での宿泊だったため、JOC のメディカルルームを受診し薬を処方してもらったり、 体重を測らせてもらったりお世話になった。また、JOC 本部のドクターやトレーナーといろいろ情報交換ができたことは収穫だった。 大塚製薬がアイシング用の氷、スポーツドリンク、カロリーメイトなどを無料で提供してくれており大いに利用させてもらった。 コースまで遠いことを除けば選手村宿泊のメリットは大きい。

選手村の食事は内容的にも衛生面でも特に問題はなかった。韓国料理のコーナーもあり なかなかおいしかったが、普段慣れない辛いものを食べ過ぎると下痢を起こすこともあるので選手にも注意した。 一つびっくりしたのは、カップラーメンが置いてあり韓国選手が好んで食べていたことである。

釜山の気候はほぼ日本と同じだが、朝晩はかなり冷える。昼間との気温差に注意した。 また、蚊が多いのにはかなり悩まされ、若い選手は25箇所も刺されて大変だった。

今回、アジア大会の競技内5 名、ドーピング検査を受けた。ドーピングについては合宿中も選手に注意を促し、服用薬、 サプリメントのチェックを行っていたが、それでもまだ“これは大丈夫”という自己判断で飲んでしまう場合もあり、 ドーピングに対する認識と知識の徹底がさらに必要であることを感じている。

日本国内でも今年からドーピング検査を行っているが、高校生、大学生などはまだまだ自分とは無関係と思っている 選手も多いと思われ、知識不足からの陽性を出さないためにも強化合宿時のレクチャー等積極的な啓蒙活動が重要であろう。