未来をともに創る──新ヘッドコーチ マックス・ローワン氏 インタビュー


公益社団法人日本ローイング協会は、新ヘッドコーチ(HC)にオーストラリア出身のマックス・ロワン(Max Rowan)氏をこのほど任命しました。ロワン氏は国際舞台での競技経験と科学的アプローチを併せ持ち、選手育成から長期的な強化戦略まで幅広い視点を有しています。2026(令和8)年4月1日付でHCに就任したロワン氏に、日本への印象や指導理念、今後の強化方針についてお話を伺いました。

マックス・ロワン氏が目指す代表チームとは
日本代表ヘッドコーチに就任したマックス・ロワン氏


1.日本への思いについて
Q:
なぜ、数ある国の中から日本のナショナルチームのヘッドコーチになろうと思ったのですか?
A:日本代表チームのヘッドコーチに魅力を感じたのは、日本がこれほどまでに力強く、独自の文化を持つ国だと考えているからです。この力強い文化は、多くのスポーツにおいて高い成果を上げる原動力となっています。私は、これがローイングにとっても、日本を代表する強豪種目へと発展させるための素晴らしい基盤になると考えています。

2.日本ボート界の印象について
Q:
現在の日本のローイング競技や、日本人アスリートに対して、どのような印象を持っていますか?
A:日本のローイングには、本当に驚かされました。全国各地に数多くのコースがあること、そして様々なレベルの競技を取り巻く文化に至るまで、すべてが予想外でした。ローイングのコミュニティが想像以上に大きかったことは、嬉しい驚きでした。
日本の選手たちの中には、まだ解き放たれていない大きな可能性が秘められていると感じています。現在の選手たちだけでなく、まだ発掘されていない才能も、国際舞台で成功を収めるだけの十分な実力を備えていると確信しています。

3.ローイングとの出会いについて
Q:
お祖父様がオックスフォード大学の対校レガッタで優勝され、お母様も学生チャンピオンだったと伺っています 。ご家族の歴史は、ご自身の競技への情熱にどのような影響を与えましたか?
A:ローイングは本質的にチームスポーツであり、その中心にはコミュニティがあります。家族を通じてこの競技に関わったことで、自分がより大きなものの一部であると感じることができました。ボートに乗ることが自然で、自分の居場所だと感じていました。その経験が、コーチとなり、この競技の素晴らしさを他の人にも伝えたいという情熱を育てました。

4.コーチングスタイルについて
Q:
ご自身のコーチングスタイルや信念を、もし一言(または短いフレーズ)で表すとすれば何ですか?
A:「基本を誰よりも徹底すること」

5.初心者とトップ選手の指導について
Q:
初心者指導(Learn to Row)からトップ層(High Performance)まで幅広い指導経験をお持ちですが 、それぞれのレベルの選手を教える際、どのようなことに一番やりがいを感じますか?
A:どのレベルにおいても、私が最もやりがいを感じることは、経験の有無にかかわらずすべての選手に共通する、選手自身の成長と、「自分が決意したことは必ず成し遂げられる」という気づきです。選手たちが自信を深めていく姿を見られることこそが、私にとって最大の喜びです。人生において学びに終わりはないと私は信じています。だからこそ、どの段階でも学ぶ姿勢を忘れない選手たちを指導することが、私にとって最も楽しいのです。

6.最も記憶に残っている瞬間について
Q:
選手やコーチとして18年以上ローイングに関わってこられましたが 、これまでの競技人生で最も記憶に残っている瞬間やレースを教えてください。
A:選ぶのは難しいですが、弟とともにU23クォドルプルでオーストラリア選手権に優勝したことは特別な思い出です。国内タイトル自体も特別ですが、弟と一緒に勝てたことは何にも代えがたい経験です。

7.プレッシャーへの対処法について
Q:
国の代表チームを率いるのは大きなプレッシャーが伴うと思いますが、ご自身は普段どのようにリフレッシュし、プレッシャーと向き合っていますか?
A:ローイング以外の趣味を持ち、心をリフレッシュすることが重要です。私の場合は写真を撮ることです。日本は絵のようにとても美しい国なので、生活もより充実しています! また、プレッシャーを「成長の機会」と捉え直すことで、うまく対処できるようになります。私たちは柔軟に対応しなければならないので、プレッシャーの高い状況を、課題に対する新たな解決策を見つける機会と捉えることで、冷静さを保つことができるのです。

8.データと感覚のバランスについて
Q:
大学で人体生理学を専攻されていましたが 、実際の指導では「科学的なデータ」と「コーチとしての直感や経験」をどのように使い分けていますか?
A:2つのバランスをとることが重要だと思います。データが多すぎると、選手がレースのプレッシャーを乗り越えるための「感情的な強さ」が失われてしまいますし、少なすぎると、競争上の優位性をもたらすような細かな情報を見逃してしまうことになります。データは、私たちがトレーニングを行うための基盤となり、その上でコーチの直感によって、必要に応じて微調整を加えていくことが重要だと思います。

9.長期的なビジョン(レガシー)について
Q:
日本のローイング界に「永続的な遺産(レガシー)」を残すプログラムを構築したいとのことですが、具体的にどのようなレガシーを日本に築きたいとお考えですか?
A:持続可能で高い競技力を持つプログラムを構築し、コミュニティ全体を一つにまとめたいと考えています。これは一人では成し遂げられないことであり、コミュニティのあらゆるレベルの人々を巻き込んでいきたいと考えています。ナショナルチームはその強さを体現する存在となります。将来の世代の選手が誇りを持って参加したいと思える環境を作りたいです。

10.科学的知見のアプローチについて
Q:
大学で人体生理学を専攻し、バイオテクノロジーと医学研究を学ばれていますが、この科学的・医学的なバックグラウンドを、日本代表チームの強化や日々のトレーニングにどのように活かしていく予定ですか?
A:私の科学的・医学的バックグラウンドは、バランスの取れたアプローチを重視する指導哲学の基盤となっています。高いパフォーマンスを発揮するためには、ローイング以外の活動も考慮に入れることが重要です。したがって、選手たちがトレーニングの合間に適切に回復する方法を身につけるよう指導することは不可欠です。身体的な回復だけでなく、精神的な回復も同様に重要です。選手たちにトレーニング負荷に対処するスキルを身につけさせることで、一貫したトレーニングを継続させ、より高い水準での練習を実現することができます。

11.指導者の育成について
Q:
アスリートだけでなく「仲間のコーチたちを育成すること」の重要性を強く信じているとのことですが、日本代表のヘッドコーチとして、日本のコーチ陣をどのようにメンタリングし、育成していく計画でしょうか?
A:コーチ陣が一堂に会し、話し合い、指導の理念を共有できる機会はとても重要です。今後の合宿を活用してコーチの育成にも取り組み、私やコミュニティ内の他の日本人コーチと協力し合えるようにしたいと考えています。また、私が学んできた国際的な指導基準や指導理念を、彼らに体験してもらいたいと思っています。日本各地の主要なトレーニング拠点を訪れ、各コーチが置かれている様々な環境を実際に見て、それぞれの状況を最大限に活かすよう指導していきたいと考えています。重要なのは、オープンで協力的な姿勢です。なぜなら、各コーチもそれぞれ独自の経験を持っているからです。

12.異文化でのカルチャー構築について
Q:
オーストラリア、アイルランド、英国と様々な環境で指導されてきましたが、ご自身が重視する「ポジティブな文化」を日本のチームにどのように浸透させていくお考えですか?
A:選手たちが、コーチだけでなくチームメイトからも支えられていると感じられるよう、私が責任を持って文化の浸透に取り組んでいきます。互いに協力し合い、前向きな方向へと高め合えるようになることが重要です。トレーニングは厳しいものになるでしょうが、これはチームが共通の経験を通じて絆を深める絶好の機会となるはずです。誰もが、何らかの形でリーダーシップを発揮する機会を得られるでしょう。

13.個人の潜在能力の引き出し方について
Q:
艇を速く進めるだけでなく、アスリートを個々人として捉えるアプローチを大切にされています。日本の選手たちの独自の特性やニーズをどのように評価し、能力を引き出していく予定ですか?
A:私は、選手一人ひとりを個性ある存在として扱い、各自が自分の長所と短所を自覚できるようにすることが重要だと考えています。トレーニングを通じて、選手たちは自分自身について多くのことを学び始めるでしょう。選手たちが自分らしさを発揮できる健全な環境を整えることで、新たな方法で自分自身に挑戦する自信を持てるようになることを願っています。そうすれば、各選手がチームに独自の強みをもたらすことができるようになり、チーム全体がより強固なものになるはずです。

14.多職種との連携(コラボレーション)について
Q:
過去には栄養士やスポーツ心理学者とも協働してプログラムを構築されていますが、日本のナショナルチームにおいても、科学スタッフや関係者とどのような協力体制(共同的なアプローチ)を構築したいですか?
A:可能な限り、日本のスポーツ科学者やサポートスタッフと緊密に連携していきたいと考えています。最近の例を挙げると、私のトレーニングプログラムを公開する過程でのことです。スポーツ科学者たちとの協力により、トレーニングの構成や身体能力テストの実施方法を設計する際に、最新の研究論文を活用することができました。今後1年ほどの間、当プログラムに最適な体制を構築していく中で、この取り組みはさらに洗練されていくことでしょう。

15.国際的なネットワークの活用について
Q:
志望動機の中で、ご自身が持つ世界中のコネクションを日本にもたらすとありました。具体的に、どのような国や環境でのトレーニングキャンプ、あるいは国際大会への参加を構想していますか?
A:私の役割として、日本とオーストラリアやアイルランドといった国々との強固な関係を築くことに尽力してまいります。これにより、オーストラリアや、同国がヨーロッパに持つトレーニング拠点などで、ハイパフォーマンス合宿を行う機会が生まれるでしょう。日本の選手たちがオーストラリアやアイルランドの選手たちと交流し、共にトレーニングを行えるようになることを期待しています。また、彼らの取り組み方からも多くを学べるはずです。日本の選手たちが、より大きなローイングコミュニティの一員であると感じられるようにしたいと考えています。

16.競技の普及と強化の両立について
Q:
これまで「初心者指導」から「トップ層」まで幅広く担当し、過去には学校のボート部員数を大幅に増加させた実績もお持ちです。日本における競技人口の拡大(普及)と、ナショナルチームの強化という両輪について、どのようにお考えですか?
A:初心者レベルの育成なくして、日本におけるトップレベルの競技成績はありえません。したがって、トップアスリート育成プログラムにとって、初心者指導プログラムが発展するための基盤を整えることは極めて重要な役割となります。私たちは今後も日本におけるトップレベルの競技成績の基準を打ち立てていきますが、体系的な初心者育成を行うことで、選手たちがトップレベルの成績を収められる選手へと成長するプロセスを加速させることができるでしょう。

17.プログラムの持続可能性(サステナビリティ)について
Q:
競技プログラムが成功しつつ「持続可能」であるための要件を理解されているとのことですが、過去の予算管理の経験なども踏まえ、日本チームの持続可能な強化には何が最も重要だとお考えですか?
A:持続可能なハイパフォーマンス・プログラムを構築するには、いくつかの点を考慮する必要があります。第一に、選手たちが容易に実践できるシンプルな構造でありながら、彼らに適切な挑戦を与えるよう調整可能なものであることです。第二に、選手たちが目指すべき高い基準を設定することです。これは技術的なポイントだけでなく、ウォームアップやクールダウンの方法、栄養管理の仕方など多岐にわたります。次に、おそらく最も重要なのが、ハイパフォーマンスの文化です。これは、コーチや選手、そしてプログラムに関わるあらゆる人々によって、長年にわたり受け継がれていくものです。持続可能な文化を築くことは困難ですが、将来的に大きな成果をもたらします。文化は成功を生み出す源であるため、プログラムに参加する選手が何をすべきかを理解できるような文化を築くよう努めなければなりません。

18.直近の目標について(就任直後のアクション)
Q:
2026(令和8)年3月24日の就任以降、まず最初に着手したいことは何でしょうか?また、今シーズンに向けた短期的な目標について教えてください。
A:私の最優先事項は、選手たちに、今シーズンおよび今後数年にわたって築き上げていくトレーニングの基礎を身につけさせることです。選手たちにトレーニングの重要な原則を教えることで、彼らは自らの成長に主体性を持って取り組めるようになります。 今シーズンの優先課題は、世界選手権やアジア大会をはじめとする国際大会で高い競争力を発揮できるよう、選手たちを最善の状態で整えることです。これにより、オリンピックでの栄光を追求する中で、来シーズン以降に向けて選手たちがさらに成長するための基盤が築かれることになります。

19.日本での生活への期待について
Q:
ボート競技以外で、日本での生活において個人的に一番楽しみにしていること(食事、文化、行きたい場所など)は何ですか?
A:カメラを持って日本各地を巡り、各地の料理を楽しむことです。日本の食べ物が大好きです!

20.ファンや選手へのメッセージ
Q:
最後に、日本のローイングファンや、これから共に戦う選手たちに向けてメッセージをお願いします。
A:日本のローイングコミュニティの皆さんと出会えることを楽しみにしています。私はこの競技が大好きですし、同じ想いを持つ方々と出会いたいです。 共に日本のために大きな成果を成し遂げ、次の世代が誇れる物語を築いていきましょう。

マックス・ロワン氏が目指す代表チームとは
2026(令和8)年4月8日(水)、東京都江東区・海の森水上競技場にて

▼マックス・ロワン氏 プロフィール▼
https://www.jara.or.jp/kyoka/current/2026JARA.HeadCoach.MaxRowan.Profile(0325).pdf