公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

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全国のオアズパーソンへの手紙(第82信)

2019年6月10日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

第97回全日本選手権大会が5月23日(木)~26日(日)に戸田コースで開催されました。1920年に第1回が隅田川で開かれているので、本来なら今年が第100回になるところなのですが、あいだで3回中止になっています。1923年の関東大震災、1944年・45年の太平洋戦争の影響です。

今年の全日本は2つの点で変わりました。まず開催時期を世界選手権等との関係で、5月末というシーズン初期にもってきたこと、もうひとつは軽量級を取り込んだことです。従って種目数はオープン種目が12種目(男子7、女子5)、軽量級が4種目(男女の2-と2x)で、合計16種目に増えました。

開催時期をシーズン初期にしたのでちょっと心配しましたが、各団体よく対応してくれて、結果は迫熱した好レースが多く、観客には実に面白い全日本でした。ブルアリアでのワールドカップIから帰国したシニアとU23の日本代表候補選手たちが、それぞれの所属団体に戻って活躍したこと、また世界ボートジュニア選手権の日本代表選手の何人かも果敢に挑戦し、レースを盛り上げてくれました。印象に残ったレースを紹介しておきましょう。

女子ではW8+で立教大学の初優勝は見事でした。明治大学の猛追も迫力のあるものでしたが逃げ切りました。立教大学OBの細淵雅邦理事が金メダル授与を買って出ましたが、その気持ちはよくわかります。W2-の立命館大学は圧勝の6連勝、W1×の大石綾美選手(アイリスオーヤマ)も同じく圧勝で3連勝とともに実力を発揮しました。W2xのレースには興奮しました。半艇身差で逃げるトヨタ自動車を、最後の300mを猛烈なハイピッチで追い上げた関西電力の漕ぎっぷりは迫力満点でした。トヨタがかろうじて逃げ切りましたが、差はなんと100分の6秒、バウボール差でした。

男子では、M8+でNTT東日本が実力の4連覇、「5分40秒を切る」という目標は今年もかないませんでしたが、今後に期待します。またNTT東日本はM2xでも日本代表候補の2人が組んで貫録勝ちでしたが、この2人にはもっと可能性があるはず。殻を破って世界レベルに伸びてくれることを期待します。M2-では、チョープロが見事な2連勝、そしてM4+で法政大学が優勝です。わたしの現役時代は「M4+は法政が強い」という印象だったので調べてみると、1960年、66年と2度優勝しています。53年ぶりの復活です。

戸田ボートコースの藻には今年も悩まされています。レースの合間にもモーターで浮き藻の除去を続けていましたが、「切りがない」という感じです。

戸田市の菅原文仁市長が今年も顔を出してくれました(市長のお母様と妹さんは体操のオリンピアンだそうです)。また企業のトップの方々も多数応援に来てくださり、選手にとっては大いに励みになったと思います。ありがとうございます。

NHKテレビが6月1日(土)に今年は1時間半番組で録画放映してくれました。

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ちょっとボートを離れますが、5月28日(火)女子マラソンのQちゃんこと高橋尚子さんと食事をしました。シドニーオリンピックで金メダルを取った時の所属が積水化学工業で、当時、わたしが社長だったこともあり、退社後も毎年会って話をするのを楽しみにしています。

今回は小出義雄コーチが亡くなられたばかりなので、小出さんの思い出話が主な話題でした。「ギリギリの猛練習を強いながら、決して頭ごなしではなく、うまいこと選手自身をやる気にさせる」そんな名コーチだった、というのがQちゃんの小出さん評です。またわたしから「世界で勝つために、特に目標を定めてやった練習は何でしたか」と聞くと、「マラソンは35km過ぎが勝負です。普通に走り込むだけの練習では35kmで飛び出しても2~3㎞しかもちません。それを4㎞、5㎞と伸ばすことを目標にして、オリンピックの時には『最後の7㎞、絶対に抜かせない!』と自信を持てました」とのこと。練習とはそうあるべきものと感心し、納得しました。

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5月20日(月)日本ボート協会の定例理事会が開かれました。渋谷の岸記念体育館での最後の理事会です。(6月3日(月)事務局は明治神宮外苑に建った「JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE」に移転しました)審議事項12件、報告事項4件と今回も盛り沢山ですが、3件だけ報告しておきます。

ひとつは「2018年度の『事業報告』と『決算』」についてです。総支出(概算)は4億1600万円(前年比2,400万円増)で、つい数年前までは2億円強の規模だったのが、とうとう4億円を超えました。国やJOCからの交付金・助成金がお蔭さまで大幅に増え、総収入の半分を超えました。使う方はもちろん強化費が主で、総額で2億2800万円です。ただ注目していただきたいのは、オリンピックに向けた日本代表候補選手向けは1億200万円と特に増やしていません。増やしたのは「タレント発掘・育成・強化」費で、なんと1億2600万円使っています。将来の若手育成に大いに注力していることをご理解ください。

ふたつ目は「競漕規則」の改訂についてです。2年がかりで進めてきた改訂案検討がようやく終り、これを6月22日(土)開催の社員総会に上程します。詳細は省きますが、基本理念は①スポーツ界を取り巻く環境の変化への対応(公平・公正・透明な運営、アスリートファーストの理念など)と②国際性の進展に対応して、FISAの諸規則との整合性を考慮した改訂案になっています。

三つめは「2020東京オリンピック日本代表選手選考基本方針」です。出場権獲得のための予選競技会は3段階(①世界選手権/2019.9 ②大陸別予選/2020.4 ③世界最終予選/2020.5)あって、実に複雑なルールで決めることになっています。いろいろのケースが考えられるので、日本代表選手選考の基本方針を現段階で明確に定めたものです。

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「オリンピックボート選手役員の会」の総会を5月25日(土)戸田公園事務所で開きました。ご存知ない方も多いかも知れませんが、この会は過去にオリンピックを経験した選手と役員の会です。日本のボートが最初にオリンピックに参加したのは1928(昭和3)年のアムステルダム(オランダ)大会ですが、それ以来これまでに19回出場し、今度の大会が20回目の節目となります。オリンピック選手に選ばれるためにはもちろん本人の厳しい練習・努力がありますが、同時に周囲から莫大な支援を受けていることを忘れてはなりません。わたしはその意味で、オリンピックを経験した選手役員は日本ボート界に恩返しをする責任があると思っています。そういった趣旨を岩崎洋三さん(1956メルボルン)とあれこれ話をして、2015年にこの会を発足させました。今は会長が岩崎さん、理事長を平田明久さん(1988ソウル)、事務局を野口(渋田)紀子さん(1996アトランタ)に務めていただいて、主な活動は小・中学生、特に高校生を中心とした若手の教育指導です。具体的には大会などの際に出かけていって講演会やエルゴ指導会をやり、その中で「若者に夢を与える話を」と、わたしからはお願いしています。

2018年の主な活動を紹介します。

○「オリンピアン 講演会」

4月12日
全日本ジュニア選手権(菊池市)
片岡(岩本)亜希子(2000シドニー他4回)
7月29日
高校選手権(東郷町)
平田明久(1988ソウル)
3月21日
全国高校選抜(天竜)
田辺保典(1992バルセロナ他2回)
中本(内山)佳保里(2004アテネ)

○「オリンピアンの教えるボート教室」

5月20日
全日本軽量級選手権(戸田)会場で
6月2日、3日
日ボ主催 エルゴ大会(お台場)で
2月2日、3日
秋田県大潟村と由利本庄市で

なお、その他にスポーツ庁主催の種々の会合にはこの会が主に出席し、スポーツ庁との関係を深めてもらっています。

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6月1日(土)2日(日)第12回全日本マスターズレガッタが大阪府高石市の浜寺ボートコースで開催されました。わたしがこのコースに来たのは、ほぼ15年振りですが、驚いたのはこのコースが今度オリンピックに向けて新設した「海の森水上競技場」とそっくりなことです。陸地と人工島との間に作った幅200m、長さ2,000mの海水コース、違いはコース両端をダムで閉じているかどうかだけで全く同じコンセプトです。対岸の有名な「浜寺公園」の松林が実に美しいのですが、「海の森」の背景の森林公園もいずれ浜寺のように美しい森に育つに違いありません。

マスターズレガッタは益々盛んになっています。今大会の参加選手数はついに1,300名を超えました。最高齢87歳で、2日間、朝7時半スタートで17時半まで(2日目は15時半まで)全部で122レースという盛況ぶりです。1日目の夜の懇親会は例年通り大変な熱気です。懇親会参加者の1,500人はとても一会場に入りきらず、二会場に分かれましたがどちらも大変な熱気です。マスターズのいいところは、出身校、所属団体を超えて「同じボートという苦しい練習を経験した」仲間同士の集まりだというところです。今回も出身校を離れた同年齢層が集まって作った新しいチームがいくつか出来て、揃いのユニフォームで気勢をあげていました。ふくれあがった大会を美事に楽しく運営し、もてなしてくれた大阪ボート協会の植田健三理事長はじめ、役員・委員の皆さん、また活気あふれる言葉でボートを激励してくれた地元、高石市の阪口伸六市長にも、心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

(以上)