公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第63信)

2017年11月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

10月28日(土)で2020東京オリンピックまであと1000日になりました。東京並びに周辺各地のあちこちで記念行事が開かれ賑やかだったようです。

ただこれを「あと1000日ない」とみるか「あと1000日ある」とみるかですが、もちろん「あと1000日ある」と積極的にみるべきでしょう。わたしは昔から「1000日稽古」という言葉が好きで、何事であれ1000日間、本気になって練習・稽古に取り組めば必ず一流の域に達することができると信じてやってきました。ボートはもちろんですが、仕事でも趣味の世界でも同じだと思っています。

とにもかくにも2020年7月24日の開幕まで1000日です。日本のボートがある日突然に強くなることなどあるはずもなく、ここは選手・コーチ・スタッフの(おも)いをひとつにして、可能性を信じて一日一日を大切に「1000日の努力」を続けましょう。

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日本代表チームはすでに2018年度の練習を始めました(正式には代表候補かもしれません。2017年度の世界選手権-シニア並びにU23-とワールドカップに参加した選手たちです)。10月1日に世界選手権から帰国し、15日まで2週間のリカバリー休養をとり、10月16日(月)から新年度の練習をスタートしたのです。

これからは、毎月2~3週間の強化合宿を重ねる一方で、11月25日(土)開催の「Head of ARA」をはじめとする各種レースで候補選手の発掘および強化を続け、正しい意味での競争意識(Spirits)を持って、日本代表クルーを絞り込んでいくことになります。

2018年度の最終目標は、もちろん9月のシニア世界選手権(ブルガリア)でのA決勝進出です。ただ来年は8月末にインドネシアでアジア大会が開かれ、これももちろん大切な大会なので代表クルー編成にはいろいろ工夫がいるところです。

10月18日(水)に長畑芳仁強化委員長から、「2017年度強化活動総括」と「2018年シーズン強化戦略プラン」の詳細について報告を受けました。強化委員会のスタッフと現場コーチ陣とが真剣に2017年度の活動を多面的に反省・総括し、その上に立って2018年シーズンの戦略をまとめ上げたことがよく分かる内容で、わたしは好感をもって聴きました。

また別途、アスリート委員会(加藤直美委員長)が日本代表選手たち24名にアンケート調査をした「2017年の強化活動に対する選手からの評価について」の報告書も受け取りました。「選手からの評価」ということに賛否があるとは思います。ギザビエNSD並びにコーチ陣にとって耳の痛い意見も当然あるでしょう。そしてその意見には深く考えられたものばかりとは限らず、甘ったれた個人的な意見もあるいは含まれているかもしれません。しかし、わたしは加藤委員長にしっかり毎年実施してくれるようお願いしています。そして強化委員会側も、まともに受けとめて対応してくれるよう言っています(ただ今年のアンケートに38名の対象選手中63%の24名しか回答してないのは残念です)。

こうしたプロセスを毎年正しく踏み、その上で「新戦略プラン」を立てていくなら、すばらしい成果に繋がるに違いないと、わたしは信じています。

3つの報告書の詳細は、ここにご報告できませんが、一点だけ、「2018年シーズン強化戦略プラン」の中で、最初に今年の「Mission」(重点実行目標だと思います)として掲げられている項目だけ紹介しておきます。これは、ギザビエNSD、強化委員会、現場コーチ陣が今の日本代表選手たちに「いちばん欠けているもの」そして「いちばん強化したい」と考えていることだと思われるからです。5項目あります。

Mission
  1. トレーニング方法の変革によるフィジカルレベルの向上
  2. 競争意識(Spirits)の成熟
  3. オープンカテゴリーの継続的強化
  4. 一貫強化システムの深化
  5. 組織力の向上

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この10月は愛媛国体(6日~9日)全日本選手権(26日~29日)と2つの大きな大会が開催されましたが、両大会とも台風に振り回された大会でした。

まず第72回愛媛国体です。会場の玉川湖ボートコースが8月頃は雨不足で、「1000メートルはとても無理、500メートルのコースも取れるかどうか」と心配していたのが、最初に来た台風で水不足は一気に解消、ところが大会前になって又台風、こんどは大量の流木でコースが埋め尽くされ、大会役員の皆さんは大苦労されたようです。どなたの知恵か、なんと数千本の竹を浮かべロープでつないでコースを囲み、内側に流木が流れ込まないようにしたのです。3000メートル近い竹の防波堤は壮観で、ちょっとした見物でしたが、お蔭でレースは無事行うことができました。ほんとうにご苦労さまでした。

次に第95回全日本選手権大会です。3日目まではまず順調だったのですが、最終日は台風22号の影響で終日冷たい雨に悩まされました。幸い風は心配したほど強くなく、しかもやや順気味だったので少しは救われましたが、選手諸君は寒かったことでしょう。その大雨の中、結構たくさんの応援の人達が傘とカッパで集まってくださったのには感激しました。

さて国体の初日10月6日(金)は愛媛県今治市のホテルで、恒例の「都道府県連絡協議会」でした。各都道府県の協会長さんが集まる年一度の機会なので、できるだけ丁寧・詳細に日本ボート界の現状をご説明するよう心懸けています。

今年も①強化活動の現況 ②2019年のプレ大会としての「世界ジュニア選手権」 ③パラローイングとの統合方針 ④日本ボート協会100周年事業 など8項目の報告事項を各委員長から報告しました。また今年の有功者表彰には京都府ボート協会会長の木本馨さんが選ばれました。おめでとうございます。

会の最後に、愛媛県ボート協会長 荒木正美さんの挨拶、そして次年度開催の福井県ボート協会長 山口治太郎さんの挨拶と続き、その後、懇親会で親しく旧交を温め合いました。

一方、10月29日の全日本選手権の最終日は、ほんとうに雨で寒い一日でしたが、興味深い熱戦が繰り広げられました。わたしの個人的に印象に残ったことを、2~3話しておきます。

女子では、立命館大学の活躍が目を引きました。W2-での4連覇は立派ですし、W8+での初優勝も見事でした。このクルーの漕法はオーソドックスな一本一本しっかり漕ぎ切るもので、わたしのようなオールドオアズマンには嬉しい漕ぎ方です。(女子エイトは12クルーの出場で、男子の16クルーに追いつく勢いです)またW1xの大石綾美さん(アイリスオーヤマ)が予選で出した7分48秒09は、1999年に全日本軽量級選手権で内山佳保里さんが持っていた7分48秒11を抜いてコースレコードだそうで、すばらしい漕ぎでした。男子ではM2xで優勝のアイリスオーヤマと2位の新日鐵住金の競り合いは見応えがありました。共にナショナルチームメンバーであり、負けたくない気持ちはひときわ強いのでしょう。またM8+はNTT東日本が2連覇です。わたしとしては、5分40秒を切ってほしかったのですが、今年もかないませんでした。NTT東日本は会社の幹部の方が沢山応援に来てくださっていて、「これで11回目の優勝だ、東大の19回を抜かなくては…」と意気盛んでした。

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10月29日(日)全日本選手権が終わった日の夜、ギザビエNSDのご一家と食事をご一緒しました。台風で大雨の中でしたが、実に楽しい‘すき焼きパーティ’でした。

お姉さんのクレリアさん(15歳)はお父さんそっくりの美少女で、原宿でのショッピングが大好き、弟のアレクシイ君(13歳)は、今春‘早稲田ボートクラブ’に入ったそうで、ご両親は大喜び、そして池袋のゲームセンターがお気に入りとのこと。

奥様のベネディクトさんは、2005年長良川の世界選手権で銀メダルを獲得した名選手、そして日本が大好きで、なんとお茶、お花、習字を習っているそうで、着物姿でお点前をしている写真を見せてくれました。9月には吉田理子コーチ(2人はシドニー五輪以来の友人)も一緒に富士山に登ったということです。

ギザビエさんは本格的なすき焼きは初めてのようで、生卵も苦にせず「旨い!」と嘆声をあげていました。驚いたことに納豆が大好物、海外遠征には冷凍したのを持っていくほど。日本での指導も3年目に入り、「今日の全日本でもいい手応えがあった」と喜ぶ一方、選手指導には悩みも感じているようでした。1991年以来、11年間フランスボート界の強化にあたった東ドイツの名コーチ、Edmond MUND氏の思い出もいろいろ聴かせてもらいました。「MUNDコーチの厳しさに比べたら僕の厳しさなどこんなに小さいんだけど…」などと手振りを交えて笑いながらの話です。

ギザビエ一家は、大会後に沖縄へ家族旅行だそうです。

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10月30日(月)の日本経済新聞朝刊の文化欄(最終面)に『琵琶湖周航の歌100年』と題した市原厚さん(日本ボート協会顧問 元関西ボート連盟会長)の寄稿が大きく載りました。市原さんが毎年作製してくれている「琵琶湖周航の歌 川那辺雅子さんのきり絵カレンダー」を愛用している方も多いと思います。わたしも毎年送っていただいて使っている一人です。

この歌ができて今年が100年になるそうで、そのいきさつなどに触れたボート関係者にとっては実に嬉しい記事です。京大ボート部の部歌とありますが、今やむしろ日本全国のボートマン・ボートウーマン全員の愛唱歌と言っていいと思います。「〽われは(うみ)の子さすらひの」を歌ったことのないオアズパーソンはいないでしょう。

なお作詞者の小口太郎さん(当時第三高等学校ボート部)は信州下諏訪の出身で、今年5月わたしは、諏訪湖畔に立っている小口さんの銅像に挨拶してきました。

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日本ボート協会事務局の人員体制が変わります。

ベテランの女性2人、苅谷裕子さんと竹内麻記子さんが都合で退職され、後任として野口紀子さんと鹿島伸恵さんが入られます。野口さん(旧姓 渋田さん)は、元オリンピアンなのでご存知の方も多いでしょう。また男性の本田新吾さんも加わります。本田さんは元海上自衛官で同じ水の仲間です。

2020東京オリンピック・パラリンピックを前にして、業務量が急増しています。新しい3人の仲間、どうぞよろしくお願いします。また退職されるお二方、長い間ほんとうにありがとうございました。

以上