公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第55信)

2017年3月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

 2月10日(金)、11日(土)の2日間、東京品川のプリンスホテルで、「2017FISA臨時総会」が開かれました。4年に1度オリンピックの翌年、「FISA定款」を見直し改訂するための臨時総会で、もちろん日本開催は初めてです。62カ国から約200人の参加で、2日間の総会議事、10日夜のネイションズディナー(夕食懇親会)、12日(日)の「海の森ボートコース」見学ツアー(約100人が参加)と、3つのイベントをそれぞれ好評裏に終えることができて、ホッとしています。準備に大忙しだった事務局と担当委員のみなさん、ほんとうにご苦労様でした。

 総会の模様はホームページに詳しく載っていますし、近々「Rowing」誌も特集するようなので、ここではわたしが特に強く印象付けられた2つの点についてお話しておきます。

ひとつは「会議運営のしかた」もうひとつはオリンピックでの競技種目見直しに関する「ローランド会長の厳しい時勢認識」です。

 まず「会議運営のしかた」ですが、じつに丁寧、民主的でオープンなことに感心しました。

FISA定款の改定案は50数ヵ条あり、常務理事のマイク・タナー氏が中心になって2年がかりでまとめたそうですが、資料の厚さが10㎝近くあります。これが事前に各国に配られる。そして会議では、ローランド議長が1条ずつ読み上げ、フロアーからの意見、質問を確認しながら決定していきます。時間はべらぼうにかかるのですが、「150カ国も加盟している国際機関の会議は、こうやるのが民主的なんだろうな」と納得させられました。

中でも1件、軽量級種目の漕手の体重規定(第31条)を、理事会案では「平均体重制を廃止し、漕手個々の体重制とし、上限体重を男子72.5㎏、女子59㎏とする」というものですが、各国から議論百出、まとまりがつかなくなりました。すると議長はいったん打ち切り、休憩。再開後「理事会案を取り下げます」として、従来通りでいくことにしたのです。余りの柔軟な対応に、「あれっ」と驚きましたが「無理は禁物」だと教えられました。

なお、この総会の議事記録は、FISAのホームページにじつに詳細に公開されています。一読の価値はあります。

 次に、われわれの最大の関心事のオリンピック種目の変更についてはみなさんご存知の通り、FISA理事会案「軽量級男子舵手なしフォアをはずし、女子舵手なしフォアを入れる」ということに決まりました。軽量級種目はこれまでの3種目から、男女ダブルスカルの2種目に減らされたわけです。じつに残念な結果です。

理事会案に対し、軽量級を重視すべしとする5ヵ国案(オーストラリア、中国、デンマーク、スイス、カナダ。カナダは途中で提案国からおりると宣明したので総会では4ヵ国が堤案)すなわち「男子舵手なしフォアをはずし、軽量級女子舵手なしフォアを入れる」という案が出されていました。

どちらにするか。初日には、なんと13ヵ国が手を挙げ、前の演壇に出て意見陳述をしました。理事会案支持の方がちょっと多いのかなという印象でした。結局翌日無記名投票で決めることとなり、理事会案94票、5カ国案67票で決着したわけです。

 わたしはこれまでに3回(日本、韓国・忠州、オランダで)ローランド会長に直接「軽量級男子舵手なしフォアを残してほしい」という日本の考えを訴えてきました。文書でもお渡ししています。今回の5ヵ国案をまとめるに際しても、千田国際委員長がアジアボート連盟(ARF)内に運動してくれて、ARF会長の中国に代表として提案国になってもらったのです。

今回は1日目(10日)夜のネイションズディナーの食事テーブル席がローランド会長とわたしが隣合わせだったのを好機に、15分ほど話し合いました。会長の意見はこうです。「IOC内の意見は極めて厳しい。トーマス・バッハ会長にしても本音は‘軽量級は認め難い’というもののようだ。‘格闘技と重量挙げ以外で重量制をとっている競技は他にない’という理屈だ。何度か話し合い、‘軽量級男子舵手なしフォアをやめれば軽量級の男女ダブルスカルの2種目だけは認めよう’というニュアンスをわたしは受け取っている。逆にもし今回5ヵ国案の軽量級を4種目に増やすという案をIOCに出したら、軽量級全てを外すという結論をIOCが出しかねない。ただでさえボート競技の種目数(14種目)と選手数(550名)を減らすべきだという意見は、IOC委員の中に底流としてずうっとあるのだから、1993年に軽量級導入が認められた時とはっきり時勢は変わっている」

ローランド会長はこうした考えを、じつに厳しい顔つきと口調で話されました。わたしとしては「日本としては、5ヵ国案に賛成することを機関決定しているので…」と申し上げるのが正直精一杯でした。

 結果的に理事会案に決まったのですが、5ヵ国案に67票集まったのには「まだ軽量級にこれだけの国の支持があるのだ」と勇気づけられました。同時に、アジアを中心とする軽量級が主体の国々を代表して、日本クルーには絶対に軽量級でメダルを取る責任がある、と思ったことです。

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今回ローランド会長は、丸々7日間日本に滞在してたいへんな密度で仕事をこなされました。「日本のボートのためならなんでも」と、多くの人に会い、まさに八面六臂の大活躍でした。フル・アテンドした細淵理事や木村理事長が「お若いとはいえ、お身体大丈夫かな」と心配するほどでした。

わたしは2月14日(火)の午後、まず組織委員会の森喜朗会長への表敬訪問にご一緒しました。遠藤利明副会長や室伏広治スポーツ局長も同席されました。

まずTVカメラや記者達の前で、公式に海の森コースに確定したお礼を述べ、今後いっそうの力添えをお願いしました。その後森会長の部屋に移って、懇談です。特にローランド会長からは2017年のプレ大会として、「世界ジュニア選手権」を開催することの重要性を話していただき、協力をお願いしました。

森会長は、海の森コースに落ち着くまで心配をおかけしたとして、ジョーク混じりに「さなと思っていたら、大荒れになってしまって…」と話されましたが、フランス人のローランド会長に理解してもらえたかどうか…。

夕方6時過ぎからは、東京都小池知事への表敬訪問です。こちらはフルタイム、TVカメラや記者の前での会見となりました。想定以上だったのは、小池知事から宮城県長沼ボートコースへぜひ各国の事前合宿を誘致したいのでローランド会長から声をかけてほしい旨、懇切に依頼されたことです。わざわざ長沼コースを紹介する数分間のDVD映像まで用意されていたのには驚きました。ローランド会長も「登米市長には先日お会いした。各国に呼びかけるよう心掛ける」と応答されていました。

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読んだ方も多いと思いますが、日本ボート協会のホームページに載った「日本のメダル獲得のために」と題する、ギザビエNSDと岩本亜希子さんの対談記事はすばらしいですね。未読の人は必読です。

ギザビエNSDが考えていること、狙っていることがじつによく分かる内容の濃い対談です。

企画したアスリート委員会、そして岩本さんに感謝です。

オリンピック開幕まで1200日です。

選手諸君はもちろんですが、各団体の監督・コーチ諸君も遠慮せずにギザビエNSDを訪ねて、彼の持っている知識・ノウハウをどんどん引き出して下さい。

今年は大事な年になります。ボート界一丸となって頑張りましょう。

以上