公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第43信)

2016年3月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武
会長写真

フランス人のオリンピック金メダリストで、昨年末からナショナルチームのアシスタントコーチをお願いしている、ギザビエ・ドルフマン(Xavier DORFMAN)さんのコーチングが、いま戸田周辺で評判です。選手にもコーチにも新鮮に前向きに受けとめられているようです。

そこで、そのコーチングの考え方を聴いてみたいと思い、2月24日、夕食をとりながらじっくりと話をしました。崎山利夫強化委員長、大林邦彦ヘッドコーチ、長畑芳仁コーチにも同席してもらいました。

基本的にはごく当たり前のことですが、

「漕艇技術と身体能力」

の両方をバランスよく強化しないと強くなれないということです。ただそのためのトレーニング方法に一工夫あり、しかも徹底しているようです。

  1. 水上では、思いきった低いレート(18以下)で長距離を漕ぎ、正しく強い、効率的な漕ぎを会得する。この低レートでの練習は、レースの2週間前くらいまで続け、レートは上げない。
  2. 陸上では、1セット15種目25分間のトレーニングを3セット、約1時間半続ける。ここで大事なポイントは「有酸素運動」に徹することで、時々乳酸値を測り、限度を越えていたらすぐ止めさせる。「無酸素運動で頑張るのは、身体をデストロイ(破壊)する」とギザビエさんは強い言葉で否定します。

大林ヘッドコーチは「従来に比べて、レートを2~3枚下げるだけで、選手の漕ぎがこれほど変わるとは……」と率直に驚きを口にします。

長畑コーチも「ボートレース6分間の80%は有酸素運動なので、納得できる。このサーキットトレーニングを高校生のうちから続ければ、日本選手の身体機能は大進歩するのではないか」と肯定的です。

コーチの皆さんは、「強いオールを引くためのトレーニングとして一本筋が通っている」と判断しているようです。

ギザビエさんは「日本の選手諸君は、真正面から実に真剣に取り組んでいる。きっといい成果に結びつく」と言います。

また崎山委員長は言います。「オリンピック予選まで3~4ヵ月間の短い期間だが、ギザビエコーチの考え方でやってみる。彼は頑固で考え方がぐらつかないし、あのトレーニングで金メダルを取ってきたのだ。4月、5月の結果を見守りたい」

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ギザビエさんとの会食では、その他にもいろんな話題に花が咲きました。いくつかご紹介しておきます。

  1. いま世界のボートは、小艇が盛んになったので、「どの国が強い」とはいいにくくなった。敢えていうなら、イギリス、ニュージーランドか。人口比で考えるとニュージーランドが最強国だ。
  2. フランスのボートは、全国に約400あるクラブが中心だ。学校単位(高校、大学とも)企業単位のクルーはほとんどない。全国レベルのインターハイ、インカレは存在しない。12~13歳で地元のクラブで漕ぎ始め、4月~5月に行われる小艇選手権がまず目標だ。6月以降の「インターナショナルレガッタシーズン」(こういう言い方をしていました)には、クラブ同士で合同クルーを組んだりして挑戦する。
    なお、ナショナルクルーは別途決まっていて、独自の年間スケジュールで国際レースに挑戦している、とのこと。
  3. ギザビエさんの家族は奥さんと男女2人の子供で、奥さんは、なんと2005年長良川世界選手権のLW1×の銀メダリストであり、そのせいもあってか、ナットウも食べる日本大好き人間だそうです。
  4. 最後にギザビエさんの箸の使い方(左利き)が惚れ惚れするほどきれいなのです。大林コーチの話では、使い方を教わる時、極めて理論的・力学的に分析理解して今の美しい箸使いをマスターしたのだそうです。「オールの動きの理論分析と同じだ」とは大林さんの弁。3セットの箸を買ってフランスに持ち帰って、家族3人にもしっかり伝授したそうです。

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関西ボート連盟会長の佐藤茂雄さん(京大端艇部OB)が昨秋11月20日に亡くなられました。2月1日(月)大阪で「偲ぶ会」があり、木村理事長、相浦事務局長と一緒に参列し、お悔やみ申し上げてきました。

佐藤さんは東京での大会にはあまり顔を出さなかったのでボート関係者でも知らない方が結構いたようですが、琵琶湖朝日レガッタなど関西のレースにはこまめに出席してくれていました。

心よりご冥福をお祈りします。

佐藤さんは意外にも(失礼)文筆の才があり、「相楽利満(サラリーマン)」の筆名で、『琵琶湖周航歌の世界』という本を出版されています。今やこの歌は京大端艇部にとどまらず、全国のオアズパーソンの愛唱歌のトップを占めるボート名歌でしょう。

その「われは湖の子」で始まる歌詞の作詞者は、小口太郎氏(旧制三高水上部)で間違いないのですが、メロディーをつけた作曲家が誰かは、永く関係者の間でも諸説があったようなのですが、それを相楽利満氏が「イギリスの『ひつじぐさ』という曲のメロディーを借りてきたものだ」と明快に跡づけたのがこの本です。

ところでこの本で知ったのですが、作詞家の小口太郎さんは28歳の若さで自死しているのですね。驚きました。

また、この「琵琶湖周航の歌」が名歌として全国に広まったのは、加藤登紀子さんが歌いだしてからのようですが、実は加藤登紀子さんは、東大女子ボート部のOGで、つい最近まで、東大-京大戦などにも来てくれて、OGレースを漕いだりもしています。れっきとしたオアズパーソンであることは、知っておいてください。

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2月15日(月)日本大学ボート部の祝賀会に出席し、多くの艇友とともにお祝いをしてきました。今日、日本大学ボート部は、学内に数ある運動部のうちでも、自転車部などと並んで最も安定的に「強いクラブ」として、存在感を誇っているようです。

今回は「ユニバシアード優勝、全日本エイト優勝、インカレ総合10連勝」の3つを祝う会で、この戦果は長い日本の大学ボート史の中でも燦然と輝く成績で、賞讃すべきものであることは言うまでもありません。

しかし、わたしは挨拶の中で、あえて「日本大学ボート部は、目線を上げ、目標をより高いところに置いて欲しい。『世界でメダル』が目標であるはずだ。ここまでくると、日大にはこのレベルで満足して欲しくない。日大の諸君は、もっともっと高い潜在可能性を秘めているに違いない。その気概を期待したい」と強くお願いしてきました。

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以上