公益社団法人日本ボート協会

Japan Rowing Association

日本ボート協会JARA

全国のオアズパーソンへの手紙(第7信)

2013年3月1日
日本ボート協会会長
大久保 尚武

女子柔道というと、去年のロンドンオリンピックで金メダルを獲得した女子57kg級の松本薫選手を思い出す人が多いのではないでしょうか。 試合前のあの野性的ともいえる凄い目を見て「相手選手は怖いだろうなぁ……」と驚き「格闘技で勝つには、 あそこまでやらなくてはだめなのだ」と認識を新たにしたことです。

その女子柔道で指導者の暴力行為問題が起こったことは、 (まだ全容はわかりませんが)まことに残念で不幸なことです。 スポーツ全体に対する社会の目がいっきに厳しくなったように思えて、残念でなりません。

わがボート界では、このような暴力的指導(あるいはパワーハラスメント、 セクシャルハラスメントなど)はまずないだろうと信じています。 しかし万が一にもかかる事態が起こることのないよう、弁護士資格をもつ二人の役員を中心にして、 未然防止さらには早期発見と是正のための対策を検討してもらいました。 その結果、日本ボート協会独自の「内部通報(ホットライン)制度」を立ち上げることにしました。 弁護士資格を持つ「コンプライアンス担当理事」の鈴木仁さんが通報・相談窓口を引き受けてくださることとなり、大安心です。 スポーツの競技団体では初めての制度だということで、 マスコミの注目を浴び、新聞記事も数多く掲載されたので、目にした方も多いと思います。

ぜひ立派な運営をしていきたいものです。 (正式には3月15日の理事会で承認決議予定。詳細は、その後ホームページ等に掲載します。)

暴力的指導などは絶対にないとは思いますが、 そうは言ってもベテランと若い新人ではパワーハラスメントに対する認識などはずいぶん違うでしょうし、 飲み会などでつい気がゆるむという危険もないではないでしょう。

現場を預かる指導者の皆さんは、決して気をゆるめることなく、 「さすがボートは紳士・淑女のスポーツ、キチッとしている」と言われるように、 厳しいなかでも健全で公正な指導をされるようお願いします。

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このような女子柔道のドタバタ劇を観るにつけても、 改めて「選手と指導者のあり方」について考えてしまいます。 ボートに打ち込んでいる(あるいは打ち込んだことのある)皆さんなら、 きっと一度はこのことを考えたことがあるでしょうし、自分なりのご意見をお持ちだと思います。

わたしも、選手として指導を受けた経験、コーチとして選手を教えた経験、 そして日本ボート協会の強化部長を務めた経験、この三つの経験がありますので、いろいろ考えさせられました。

暴力的指導などがもってのほかであることは言うまでもありませんが、 ただ最近のこの種の事件の報道を新聞などで読んで、ちょっと違和感を覚えることもあります。 それはコーチ・指導者のよろしくない行動にばかりに焦点があたっている点です。 指導者=強者、選手=弱者という構図で記事をまとめているケースが、わりと多いような気がしています。 これでは本当の大事なところが十分には見えてこないと思うのです。

わたしは、選手とコーチ、両者の相乗効果によって選手は強くなるのだと思います。 指導者がいかに選手を教育するかという一方通行的なものではなく、 「愛情をもって選手を育てようとする指導者」と「必死に学んで成長しようとする意欲に満ちた選手」とのハーモニーこそが大切だと思っています。

この半年間、選手たちの声もだいぶ聴きましたが、 「勝てなくて一番悔しがっているのは、選手自身です」という声、 「外国人選手のビデオを何度も繰り返し観て自主研究したのが、一番身につきました」という声などが強く印象に残っています。 強い選手は例外なく自立しています。

「アスリート・ファースト(選手第一)」で日本ボート協会は運営していこうと思っていますが、 これには二つの意味がこめられています。 一つは「選手の声を十分にとり入れた協会運営」で、 もう一つは「選手の自立・自助が第一、それにプラス優れた指導」ということです。

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レスリング界の方も大騒動です。

IOC(国際オリンピック委員会)が2020年五輪からの除外候補に決めたものですから、 国際レスリング連盟としても総力戦でIOC対策をしているようです。 以前、野球とソフトボールが外されたときにも感じたことですが、ヨーロッパで人気がなく弱い競技は危ないのです (その点ボートはまず心配ないのですが……)。 それと今回は、スペインのサマランチ・ジュニア氏の影響力がIOCの中で強いことがわかり、 2020年オリンピック開催地候補として一番劣勢と思われていたマドリードが急浮上してきて、 東京都としてもうかうかできないというところのようです。

この件から得られる教訓は、 やはり必要なところにはしっかりした情報ネットワーク・人脈を持っておかなくてはだめだということです。 このことを日本ボート協会にあてはめるとどうなるか、すこし考えてみましょう。

国際的には、まずFISA(国際ボート連盟)に委員を送り込んでおかなくてはなりません。 現在は日浦幹夫さん(医科学委員会オフィサー)がFISA医事委員をしてくれていますが、 もう一人くらいは何かの委員を出しておきたいと思います。次にARF(アジアボート連盟)では、 千田隆夫さん(国際委員会オフィサー)が審判委員、 藤居譲太郎さん(管理本部長)と若狭直美さん(国際委員)の二人がマーケティング委員、 岡本悟さん(競技委員会オフィサー アダプティブ担当)がアダプティブ委員と、四人が入ってくれています。 ただアジアなのですから、日本としてもう少しイニシアティブをとるべきだという意見もあります。

次に国内ですが、 JOC(日本オリンピック委員会)はオリンピックやユニバシアードの派遣人員枠の決定とか強化費の査定などの権限を持ち、 ぜひ強いつながりを持っておきたいのですが、幸い平岡英介さん(理事)がJOC常務理事を務めてくれているので安心です。 日本体育協会は国体はじめあらゆる面で関係が深く、協会事務局を含めて常に接触しておくことが大切です。 そして文部科学省が管轄する日本スポーツ振興センターは、 傘下にNTC(ナショナルトレーニングセンター)とJISS(国立スポーツ科学センター)を持つ大事な機関です。 特にいろいろな助成金制度もやっているので、 情報をキチッと取り(貧乏所帯の日本ボート協会としては)的確に対応しなければと思っています。

まったく別の観点ですが、マスコミとのつながり強化を広報委員会にはお願いしています。 テレビや新聞・雑誌にもっとボートの映像や記事が載るようにするには、どうしたらいいのか。 ボートとカヌーの区別がいまだにつかないようでは情けない限りなので、 まず岸体育館の中の記者クラブの皆さんとの接触を深めることが必要なのかもしれません。 いずれにしろ今後の大事な研究課題だと考えています。

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前回のこの手紙でも書きましたが、参議院議員の橋本聖子さんと最近二回お会いし、 一度は食事をしながら2時間ほどじっくりお話を伺いました。 日本スケート連盟と日本自転車競技連盟の会長、それにJOCの理事もされているので、 経験談を含めいろいろ教わりました。

彼女が本を出したので、紹介しておきます。凄い本です。

橋本聖子著『オリンピック魂 人間力を高める』(共同通信社)

以上